「名前ちゃん〜、ちょっといいかなぁ〜?」 「はいはい、何でしょう大将」 「名前で呼んでって言ってるでしょう〜」 「公私混同はしない主義です。それで何でしょうか」 「…ん〜……何だったかなぁ〜?」 「また忘れたんですか。私もう行きますね」 「あっ…あーぁ〜…仕事場で名前呼ばせるにはどうしたらいいんだろうねぇ…」 黄猿はがっくり肩を落として小さくなってく背中を見つめる。 「まぁ、壁は高いほうがいいよねぇ〜」 「黄猿さん!こんなとこに居たんですか。出動要請が入ってます。すぐに出動を」 「何事〜?」 「はい、海賊の討伐なんですがどうやら動物系の能力者らしく歯が立たなく…」 「他の大将はァ〜?」 「それが…」 「大将!」 「んん〜?名前ちゃん…?」 先程見送ったはずの名前がいつの間にか近くに居た。 「私にも出動要請が入りました。お供致します」 「…そっかぁ〜、それじゃぁ仲良く海賊倒しに行こうかぁ〜」 「お二人ともお気を付けて!」 「はい。サポートは頼みます」 「サポートなんていらないでしょう〜。わっしがささっと片付けるよォ」 「頼もしいです、大将」 「名前で呼ん…」 「さあ行きましょう!」 「はぁあ〜…」 海兵を手こずらせていた海賊たちも黄猿が加わった途端に捕らえられた。 呆気ないねぇ〜…と言いながら捕らえた海賊たちを海軍の艦に乗せ名前と共に船内の見回りに行く。 黄猿はこっそり手を繋ごうと試みるが、名前は書類を書きながらテキパキと一部屋ずつ調べていく。 一時間ほど経った頃、やっと船の一番奥の部屋に辿り着いた。名前がドアに手をかけると微かに今までのドアとは違う音が… 「! 名前ちゃん!」 「…っ?!」 ドスッ、ドスッ… ドアが開くと同時に黄猿は名前を抱き締めた。名前は何が起こったのかわからず、狼狽える。 「た、大将…?」 「っ、ん〜…ちょっと、油断したねぇ…」 黄猿はいつもの間延びした口調だがドサッと名前の足元に倒れた。背中には石で出来たような矢が刺さっている。 「大将…!?どうしよう!何で?!」 「名前ちゃん…落ち着いて…わっしは大丈夫…」 「何処が大丈夫なんですか?!今ドクターを…!」 「ダメ、名前ちゃん…」 弱々しく手を伸ばすと名前は座り込んで手を握る。顔を見上げると目にはうっすら涙が浮かび。 「大将…っ」 「大丈夫だよォ〜……」 「や…やだ、目を閉じないで!ダメです、ダメ!ボルサリーノさん!!!」 ぎゅっ 「…えっ?!」 「やぁっと名前呼んだねぇ〜」 「あ…え…?」 「イタタ…海楼石の矢だっていうのは計算外だけどもォ、大丈夫。傷は浅いよォ」 名前を抱き締めながら片手で背中に刺さった矢を抜く。名前はまたも狼狽えた。 先程までぐったりしていた人間が自分をぎゅっと抱き締めている。…これはどういうこと…? 「名前ちゃん?」 「……ボルサリーノさん…大丈夫、なんですか…?」 「大丈夫だよォ〜?心配かけてごめんねぇ〜。名前ちゃんはぁ?」 「わ、たしは大丈…良かっ、た…」 「泣かないで〜…」 「もうダメかと…っ!」 「わっしは名前ちゃんを置いてなんか死なないから〜。それじゃ、名前二回も呼んでくれたからこの部屋調べて帰ろうか〜。危ないからわっしが調べてくるよォ」 未だ涙が止まらない名前の頭を撫で部屋に入る。注意深く見渡すとドアを開けたことで作動する罠以外は見当たらない。 何かありそうだが名前のため他の海兵に任せて帰ろうと部屋を出る。 「…お疲れ様です、大将」 「ん〜…冷静になるの早いねぇ」 「早く帰りましょう。傷の手当てをしないと」 「そうだねぇ〜。手当ては名前ちゃんにお願いするよォ」 「…はい。だから早く行きましょう、…ボルサリーノさん」 「…!」 痛みよりも名前を呼んでくれた喜びのが勝る。 |