『ハロー、スモーカー』


電伝虫がニッコリと笑った。


「…仕事中にかけてくるんじゃねェよ」

『一応仕事の電話なんだけれど』

「なら要件だけ言え」

『寂しいじゃない』

「寂しくねェ。切るぞ」

『待って待って。相変わらずせっかちね。今朝書類届いたでしょう?』

「…あァ、まだ開けてねェ」

『その書類、間違ってそっちに届けられたのよ。中に私の名前が書いてあると思う』


ガサガサと書類を広げてみれば確かに彼女の名前があった。フゥ、と煙を吐く。


「…あー、そっち届けさせればいいんだな?」

『最初はそれでいいかなって思ってたんだけど、こっちのミスだし』

「なら人寄越せ」

『うん。…だから来ちゃった』

「…は?」


スモーカーが振り向けば電伝虫を持った名前が立っていた。


「その書類無いと今日帰れないからね」


電伝虫と名前の声が重なる。スモーカーは溜め息と煙を一緒に吐いて電伝虫を切り、…ほら持ってけと書類の入った封筒を渡す。


「ありがとう。それじゃ、午後も頑張って」


何も言わずに見送って、デスクワークに戻る。数分も経たないうちに電伝虫が鳴った。相手が誰だかわかったスモーカーは渋々電伝虫を取る。


「……次は何だ」

『ちょっとお話しましょうよ』

「断る」

『冷たいわね。部署に戻るまででいいから』

「要はおれを暇潰しに使いたいだけだろ」

『人聞きの悪い。暇じゃないわよ。今も歩きながらちゃんと書類確認してるわ』

「なら書類に専念するんだな」

『えー…』


ガチャンと音を立てて切った。間髪入れずに電伝虫がけたたましく鳴る。


「うるせェ!」

『あら、今日は初めての連絡だけれど。ヒナ驚愕』

「何だ…お前か…」

『不機嫌の原因は名前ね?』

「……。お前は何の用だ」

『スモーカー君宛の書類がこっちに来てたから名前に持たせるわ』

「何で名前なんだ」

『ちょうど今会ったの』

『スモーカー、また会いに行くわ』

「……。ハァ…」

『それじゃ』


電伝虫が切れる。またアイツが来るのかと大きく溜め息をついて煙まみれになった。
程なくして名前が笑顔で封筒を持ってきた。


「また会えて嬉しいわ、スモーカー」

「ハイハイ…書類寄越せ」

「ハイ。今日は至る所で書類間違いが出てるの。何があったのかしら」

「おれが知るか」

「それもそうね。じゃ、ちょっと急がなきゃいけないからまたね」

「……名前」

「ん?」

「…今夜空けておけ」

「…え!?」

「さっさと行け。時間なくなるぞ」

「…!わかった、今夜ね」


名前は少し顔を赤らめて自分の所属する部署へと戻って行く。スモーカーは書類を確認して煙を吐いた。



コール!コール!コール!



プルルル
(…何だ)
(言い忘れてたの)
(あ?)
(大好き!)
ガチャッ
(……。今言うことじゃねェだろ…)
- ナノ -