ディスプレイされているぬいぐるみが可愛かったの、と名前が楽しそうに話しているのを見かけたスモーカー。彼は何を思ったか、誰に何を言うことなく出掛けて行った。


「…ねえ、スモーカーさんは?」

「あれ、さっきまで部屋にいたんだけど…」

「もう行っちゃったのかな。話に夢中で気付かなかった…」

「ごめんなさい!名前…」

「大丈夫よ。此処にいればまた会えるじゃない」


名前はクスクス笑って犬の耳が見えそうなたしぎを撫でた。…そして抱き付く。


「名前っ?」

「犬可愛い犬ー!たしぎは犬!可愛い!」

「また…!わたしはそんなに犬ですかっ!?」


同僚達はまた名前の暴走が始まったと笑い始めた。たしぎの助けを求める目は皆見ないフリをして更に暴走を悪化させる。


「ちょっと、名前!皆さん助けて下さい…!」

「今夜はたしぎをお持ち帰りしようかな…」

「!? 目が本気!あ、スモーカーさん!」

「その手には乗らないわよー!」

「…何やってんだお前は」
「可愛い犬を愛でて…え?」

「良かった!助けて下さ…え?」


名前が振り向くと、そこにはスモーカーが立っていて、まさか本物だとは思わずに声を上げた。
たしぎが見たものはスモーカーで、その手には大きな犬のぬいぐるみが抱えられているという奇妙な光景で声を上げた。
同僚達も唖然としてスモーカーを見た。


「「スモーカーさん…何ですかそれ」」


思わず正座になる二人。スモーカーは何て事ないように煙を吐き、名前の顔にぬいぐるみを思いっきり投げつけ、たしぎには小さな菓子箱を渡した。


「うっ…!」

「あ、ありがとうございます。名前大丈夫?」

「ぬ、ぬいぐるみがふわふわなお陰で何とか…って、これ…」


スモーカーはズカズカ歩いてさっさと仕事に出向いた。


「…さっき話してたぬいぐるみ…?」

「わあ…!良かったですね名前!」

「う…うん…」


ぬいぐるみを抱えて呆然とする。何故このぬいぐるみだとわかったのか何故このぬいぐるみだと何故…。ループする言葉に答えは見つからず。
周りがはやし立てるも名前は暫く固まっていた。



お土産



後日。
(スモーカーさん!)
(あァ?)
(ぬいぐるみありがとうございます)
(…遅ェよ)
(だって、夢かと思って…。やっと現実だとわかりました!)
(…フン)
(同僚や店や街の人に聞き込みをしていたら多くの方がぬいぐるみを抱えるスモーカーさんを目撃してまして…)
(聞き込み?!)
(今ではたしぎをお持ち帰りする欲求が抑えられています。本当にありがとうございました!)
(オイ、聞き込みって)
(でも流石スモーカーさんですね。たしぎ似の犬を見つけるなんて)
(……)
(では失礼します!)
(……いや、違う…名前…)
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