「…オイ…」


スモーカーはぐったりしていた。手には海楼石の枷、オマケに自身の武器、十手を突き付けられている。
突き付けているのは紛れもなく恋人の名前で、スモーカーは何度目かわからない盛大な溜め息をついた。


「…本当に抵抗出来ないのね」

「…何度も言っただろ…」

「まさかこんなに弱くなるなんて…」

「……」


発端は自室に来ていた名前の何気ない一言だった。
―『海楼石の効果ってどんなものなのかしら』
…その時点で逃げれば良かったものを、スモーカーは聞き流し、気が付いた時には手に枷を、十手は奪われていた。准将がこのザマだとは…自己嫌悪と共に吐き出す息。


「…スモーカーが煙じゃないって違和感があるわ。出会った頃にはもう煙だったし」

「…もういいだろ」

「……もうちょっとだけ」


ニッコリと笑いながらスモーカーを押し倒す。


「名前…?」

「あらいい眺め。…襲っちゃおうかしら」

「…ハァ……」

「…そんな気力も無いの?大丈夫?」


心配するならさっさと解放してくれ、スモーカーは心の中で思って目を閉じる。


(…からかってやるか)


「…名前」

「なに?」

「…能力者はな、長時間海楼石に触れていると死ぬぞ」

「……あはは!なにそれ初耳なんだけど」

「……おれァあと何時間だろうな…」

「またまたぁ!それじゃインペルダウンはどうなるのよ?」

「……(チッ…)」

「……スモーカー?」

「……」

「……スモーカー…?」


薄く目を開けると心配そうに見下ろす名前が見えた。


(…これは…半信半疑の目だ。イケるか。)


「…海楼石にも種類があるんだ…手錠には軽い効力、今お前が突き付けているその十手には何十倍にも凝縮したモンを使っている。能力者をすぐに捕まえるためにな…」

「……うそ」

「……」

「……」


…どんどん不安そうな顔になっていく名前。


(クク、簡単に騙されやがって…この前(エイプリルフール)の仕返しだ。)


「…っ」

「スモーカー?!」


苦しそうに見えるよう、眉間に皺を寄せてみる。すると、名前はすぐさま顔色を変えて十手を投げ出し、枷を外した。


ボフン!


「へっ?!」

「…随分と…ナメた真似してくれるじゃねェか…なあ、名前…?」

「……!!」


煙になり背後に回り、名前を拘束する。状況が飲み込めたのかすぐに抵抗をするが、煙のおれには効かない。


「…だっ…騙したのね…!」

「おれがあれだけでくたばるワケねェだろうが。それに、海楼石も嘘だ」

「…それはなんとなくわかっていたけど…」

「真っ青になった名前の顔、撮れば良かったな?」

「! 意地悪!心配したんだから!」

「…なら最初からするんじゃねェよ」

「…ごめんなさい」


名前がうなだれると髪が流れ、うなじが見えた。


…………………………がぶ


「い゛ったァ!!?」

「……仕置き、だ。…お、赤くなってきた」

「っ…洒落にならないくらい痛いんですが…てか私今夜ヒナと約束してるんですが…」

「…フン(…やりすぎたか…)」

「…ごめんね、スモーカー」

「……」

「それじゃそろそろ離し…ん…」

ちゅ、ちゅ…

「…遅くなるのか」

「…早く帰ってきてほしい?」

「…!さっさと行け!」

バシッ!

「イタッ。そんなに遅くならないけど、先に寝ていて」

「誰も待つなんて言ってねェ!」

「うん、ありがとう」

「…お前」

「おっと、時間だ。行ってきます!」

「あ゛ー…気を付けてけ」

「うん!優しいね、スモーカーは!」


…あぁクソッ、帰ってきたら容赦しねェ!





煙の逆襲…?



(お待たせ、ヒナ)
(…あら、名前)
(ん?)
(…それ何?歯型…?)
(!!)
(…どんなプレイをしているのかしら。ヒナ関心)
(断じて違うっ!)

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