「こんにちは!准将の奥さん」
「今日もお綺麗です、准将の奥さん」
「ほう、君があのスモーカーの」
「准将の奥方、今度良ければ夕食に…」


…顔パスで海軍に出入り出来るようになったのはいいけれど、奥さんと呼ばれるとどうしても老けたような感覚に陥る。
適当に愛想笑いをしながらロビーに向かえば彼の部下が待っていた。


「名前さん!」

「お待たせ、たしぎさん」

「いえ、大丈夫です。それよりすっかり有名になってしまいましたね」


周りの視線が気になるのか、彼女はキョロキョロしながら言った。
私が妻だと知っていたのは彼女とヒナだけだったのに今や海軍全域に広まって…。


「はあ…こんな窮屈になるんだったらあんな騒ぎ起こさなきゃ良かったです」

「窮屈ですか?これならいつでもお話出来るので嬉しいのですが…」

「! ちょ、ちょっと照れるわその言い方…」

「ええ〜?」


天然なのか確信犯なのか、たしぎさんはニッコリ笑う。


「…ランチ行きましょう」

「はーい」


今日は彼女の勧めで美味しいと評判の軍のレストランへ連れて行ってもらうことになっていた。
レストランに入ってからも声をかけられ、あまり落ち着かない。彼女も落ち着かないらしく、子犬のようなオーラを出しながら申し訳なさそうに謝った。


「周りはともかく、これ美味しい」

「!そうでしょう!お気に入りなんですよ」


こっちも食べてみます?とスプーンを差し出され、…あーん。


「ん、美味しい!」

「良かった!…そういえば名前さん」

「ん?」

「あの日、スモーカーさんが葉巻忘れた日のことなんですが」

「…なに?」

「実は葉巻なんて忘れてなかったんです。見ちゃいました」

「…本当に!?そうだよねぇ、あのスモーカーが葉巻忘れるなんて有り得ないもの」

「それで、勇気を出して訊いてみたんですが」

(本当に勇気あるなこの子)

「…あの騒ぎは想定内で名前さんを皆さんに紹介するために」

たしぎィ!!!

「ヒィッ?!」

「てめェ…」

「きゃああすみません名前さん!仕事に戻ります!!」

「え、たしぎさん!?」


…なんか、とてつもないことを言い逃げしていった。
大声を張り上げたスモーカーは眉間に皺を寄せてたしぎさんが座っていた席に座る。


「…ご、ごきげんようスモーカー」

「……」

「…今の本当?」

「…うるせェ。食ったら帰れ」

「…本当なんだ…」


…ということは、まんまとスモーカーに踊らされていたわけだ。


「…そんな面倒なことしなくても普通に紹介すればいいのに」

「…今更出来るか」




忘れ物、後日談



(恥ずかしがり屋め!)
(うるせェ)
(…ねぇ、今思ったんだけどたしぎさんて凄いのね。自慢の部下でしょう)
(仕事の出来を見てから言え)
(仕事じゃなくて度胸とか)
(……)
(ああじゃないとスモーカーの部下は務まらないわね。これからもたしぎさんを応援するわ)
(……ハァ)
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