今日は厄日だ。


「ですから、何度も言っていますようにスモーカー准将にはお会いさせることは出来ません」

「私は彼に呼び出されて来たの。それなのにダメってどういうこと?スモーカーを呼んで」

「准将は一般市民と面会出来るほど暇ではありませんので。それに来客があるとは一言も聞いてません」

「確認すればいいだけじゃない」


呼び出されてわざわざ仕事場に出向いたのにこの扱い。これだからお堅い海軍は嫌いよ。そもそも呼び出しておいて部下に何も伝えてないって、あの人は…!


「名前!」

「「スモーカー(准将!)」」

「遅いと思って来てみれば…何してんだ…」


暫くしてから事の元凶がやってきた。呆れ顔にいつもの葉巻がないけどそんなことより呆れたいのはこっちよ!


「申し訳ありません准将!この方が准将にどうしてもお会いしたいと…」

「遅くなったのは貴方のせいよ。妻が夫に会わせてもらえないってどういうこと?恥ずかしがり屋な貴方だからって部下に妻を紹介してないとか。これからは顔パスで入れるようにしてちょうだい」

「…妻…?!」

「あァ、悪かった。そういうことだ。次コイツが来たらおれの部屋に通せ」

「へ?…はっ!申し訳御座いません!まさか奥様だとは…」

「もういいわ。悪いのは全部スモーカーだし」


それなりに大声でまくし立てたせいか、さっきまで賑やかだったフロアは静まり返っている。


「妻?」
「え、准将に奥さん?」
「マジかよ」
「既婚者?!」
「羨ましい…!」


「…てめェらいつまで見てる!仕事に戻れ!」


ざわざわ。


「…あー、ついてこい」

「ええ。これでいつでも出入り出来るわね」

「チッ」


小さく舌打ちしたスモーカーは好奇の眼差しを受けながらずんずんと歩き出す。
その大きな背中を追ってみればいつもより少し歩く速度が早い。くすくす。








「―で、ちゃんと持ってきたんだろうな」


部屋に着くなりスモーカーはドカッと椅子に腰掛ける。私はその隣に立ち、頼まれていた葉巻を手渡した。
全く、葉巻が無くなったから持って来いなんてスモーカーじゃなきゃ言うこと聞かないわよ。そう言い終わる前に彼は葉巻に火を点けた。


「…ふー」

「…お礼は?スモーカー」

「…あ?」

「いやいや、あ?じゃなくて。持って来てあんな思いしたんだから何か労りの言葉とか」

「…あァ」


ふー、と煙を吐き出して、


「…ん、?」


まばたきした瞬間にスモーカーのドアップが目の前にあった。


「…これでいいか、名前」

「…うわ…不意打ちとか卑怯な」




忘れ物





(じゃ、私はこれで)
(オイ、まだ受け取ってねェぞ)
(?葉巻なら渡したけど。…え、ちょっと捕まえないでよ。嫌な予感しかしない)
(ちょうど昼休みなんだ)
(あらそう、私お昼まだだから帰…)
(奇遇だな、おれもだ。昼飯として大人しく喰われろ)
(?!此処が何処か知っていますか!)
(あァ、だから声出すなよ)
(誰か助けてー!)

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