「今日は帰りなさい」


そう言われたのは初めてで、あまりに真剣に言うから怖くなって逃げ出した。
それから数日、私は忘れるように仕事に打ち込んだ。何日目かわからなくなってきた頃、黄猿さんから任務が終わったら自宅で報告書を書くように言われ、渋々承諾した。

任務は何て事無い、海賊の討伐。…今回の任務はちょっとだけ私情を混ぜてストレス発散で海賊に当たっちゃったけれど…大丈夫だよね。海賊だし。うん。
報告書には何て書こう?報告書が一番つらいのよね…
そう考えて歩いていたらいつの間にか自宅に着いた。

……?
あれ、電気が点いてる。今朝消し忘れた…はず、無い。いくらなんでもそんなドジはしない。



…誰か、いる。



気配を消して家に入って玄関、浴室を確認。…大丈夫。
残るは自室…そっとドアを開けて覗いてみた。


「あらららら、名前ちゃんおかえり。気配消すの上手になったね」

「……大将…?!」


部屋には久々に見る人が居た。




「…大将」

「なあに」

「…私、報告書を書かないと。巨体に抱きつかれていると非常にやりにくいです」

「…真面目だねぇ。オジサン感動」

「……」

「…あーその、名前ちゃん」

「…はい」

「こないだはごめんね」

「…いえ」

「ちょっと、嫌な任務で」

「…はい」

「どうしても一緒に居られなかった」

「…はい」

「…あー、何言っても言い訳だね」

「…そうですね」

「…ごめんね」

「…いいんです。もう謝らないで下さい」

「…うん。そうだ、名前ちゃんの好きなケーキ買ってきたよ」

「本当ですか?やった、ケーキ久々!紅茶淹れます!」

「その前に夕飯にしない?」

「あ、じゃあ作ります。パスタくらいしかないですよ」

「いいねー。手伝うよ」

「冷製作る気ないんで待ってて下さいねー」

「え、ひどい」

「冗談です」


うなだれた大将を見て何だか久々に笑った気がした。


それから夕飯作って、ケーキ食べて、ご機嫌取りであろうプレゼントもらって、大将はずっと隣で手を握っててくれて。


「大将…」

「クザン」
「…クザン、」

「ん?」

「…ありがとう?」

「何で疑問系なのよ」

「プレゼント無いほうがポイント高いですよ」

「! そうなの?」

「気持ちだけで十分です」

「…んー、じゃあキスしようか」

「…はい」

「え、いいの?キスしちゃうよ?久々だから味わっちゃうよ?」

「言うな!…ん、」

「んー、相変わらずやわらか…」

ちゅ

「…ふわふわで…」

ちゅ

「美味しいよ、名前…」

ちゅっ

「っ…ああ恥ずかしい…!」

「あらら、可愛いなあもう」

「クザン…!」

「…好きだよ、名前」

「…私も!」


クザンに力一杯抱きつくと抱き返される。ちょっと痛いけど、幸せだからいいか。




…翌々日。

名前と青雉が手を繋いで一緒に出社するのが目撃された。



おかえりなさい。



(報告書持ってきましたー!)
(ん〜、仲直り出来たみたいで良かったねぇ)
(!! はい、ありがとうございます)
(名前ちゃーん、ちょっとおれの部署に来てくれる?)
(またわっしの部下使うのかい〜…)
(いいじゃない。ケチケチするな)
(…それじゃァ、近々異動させようかねぇ〜)
((?!))
(二人の仕事の出来次第で、だけどねぇ)
((頑張ります!))



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