「…キスしてえ」


青キジはぽつりとそう呟いた。


「…あぁあ…」

「…ど、どうしたんですか、青キジさん…」

(馬鹿!訊くんじゃねェ!)

「どうしたかって…?」

(うわ…やっぱり不機嫌…お前凍ったな)

(え?!おれ死ぬ!?)

「まー、聞いてよ」

「え…何ですか」

「最近休みが合わなくてさあ…名前と全然会ってないワケよ」


一人捕まった部下以外はそそくさとその場を離れていく。


(うわ、みんなひどっ!)

「でさ…寂しいんだよ、おれは。連絡も寄越さないし、触れられないし」

「はあ…それは嫌われているんじゃ…」

「!!?」

「あっ、いや、すみません!」

「名前が…嫌って…」


途端に真っ青になった青キジは駆け出した。


「あっ、青キジさん!?」

「確認してくる!」


普段のだらけきった青キジからは想像つかない機敏な動きで名前の居る部署へと急ぐ。部屋に入って、周りを気にせず名前を呼んだ。


「名前!」

「えっ、青キジさん?」

「ちょっと来なさい」

「今…」

「来なさい」

「え…はい」


部署内がざわざわとしだすのもお構いなしに、駆け寄ってきた名前の腕を掴んで廊下に出た。訳がわからず見上げる名前を壁に押し付け見据える。


「あ…おキジさん…?」

「おれのこと嫌い?」

「……は?」


急な質問に名前は首を傾げた。青キジは真面目だ。


「おれのこと、嫌い?」

「何言って…。最近時間が合わないの、気にしているんですか?」

「うん」

「…だからって仕事中に…」

「ごめん」

「う…。謝らないで下さい…」

「…ごめん」

「……」

「……」

「…青キジさんのこと、大好きですよ」

「…!」

「すみません。ちょっと忙しくて…なんて、言い訳ですが。やっと一段落しそうなので今夜あたりお誘いに行こうかと…」

「マジで」

「マジで」

「よしじゃあ今夜はデートだ」

「はい。早めに終わらせますから。また今夜に…ん、…お仕事頑張って下さい」

「ん、名前もね」


唇が触れて離れて、嬉しそうに笑った青キジはご機嫌なまま歩いて行った。


「…だらけきった青キジさんを此処まで動かす私って、実は凄いのかもしれない」










(ふんふーん)
((ほっ、あの様子だと嫌われてはいなかったみたいだな))
(あ、居た居た。君!)
(はいっ!)
(嘘言っちゃいけねえだろ。ちょっと凍っておけ)
(!!?)




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