『誕生日おめでとうございます』たった一言を告げたいが為に鷹の目を呼び出した名前は、家の中を行ったり来たりと落ち着き無く歩き回る。テーブルの上に用意された夕食は時間のかかるものばかりで、彼女がどれほど気合いを入れたかがよくわかった。 「…喜んでくれるかな…それよりも来てくれるのだろうか」 エプロン姿のままそわそわとひたすら歩く。静かな部屋にコンコン…と小さく音が響いた。肩を跳ねさせると大慌てで玄関に行き、深呼吸をするとドアを開ける。そこにはいつもと変わらない鷹の目の姿があった。 「…い、いらっしゃい、ませ、」 「ああ。邪魔するぞ」 暴れそうな心臓をなんとか抑えながら部屋に招き入れ、リビングへと案内する。慣れたような鷹の目は迷わずにソファーへと腰掛けた。 「今、夕食の準備をしますね」 「何か手伝うことはあるか?」 「いえ、もう大体の準備は終わってますから」 「そうか。ならば此処で待っていよう。…楽しみだ」 鷹の目はくす、と小さく笑いながら名前を見上げる。途端に真っ赤になった名前はあたふたしながらキッチンへと向かった。 暫くして名前はテーブルに料理を並べていき、鷹の目の斜め向かいのソファーに腰掛ける。 「…口に合うと、いいのですが」 「何を言っている?名前の作るものだ、不味いはずなかろう」 「そんなさらっと恥ずかしいことを!」 もう、と再び顔を真っ赤にさせるといただきますと手を合わせた。鷹の目も同じように静かに手を合わせて料理を食べ始めると互いに無口になる。 ナイフで切り、フォークで口に運ぶ。ワイングラスに注がれた赤ワインを飲み、再びナイフを持つ。そんな鷹の目の優雅な一連の動作に時折見惚れながら黙々と食べていった。 「…美味であった」 「良かった!」 食事が終わり、満足そうな鷹の目を見るとふふ、と嬉しそうに笑った名前は食器を片付けていく。鷹の目も食器を持つとキッチンへと向かい、食器を置いていった。洗い物しますから、と鷹の目を部屋に戻らせると早々に洗い物に取りかかる。 全てを終えると戸棚の中から小さな箱を取り出した。黒い包装紙、ワインレッドのリボンでラッピングされた箱を眺め、深呼吸してから背中に隠すように持つと部屋へと向かう。 「た…鷹の目さんっ」 「ん、…どうした?」 部屋に入るやソファーでくつろぐ鷹の目に近付き、多少上擦った声で呼んだ。読み始めようとしたのか、持っていた本を近くのテーブルに置くと名前を見上げる。 「ごめんなさい、ちょっと、いいですか、」 「? ああ。隣に座れ」 自分の隣をぽふ、と叩くと座るように促した。頬を染めながら隣に座ると背中に隠していた箱を鷹の目に差し出し…、 「誕生日、おめでとうございます!」 真っ直ぐと目を見つめながら祝いの言葉を告げた。目を見開きながら名前を見つめ返し、箱を受け取ると口角を上げて微笑む。 「…忘れていた。感謝する」 「あの、気に入ってくれたら、嬉しいです、」 「開けても?」 「勿論!」 顔を真っ赤にしながらこくこく頷く名前にくつくつと笑いながら丁寧にラッピングを開けていった。箱の蓋を持ち上げると中には万年筆と手帳が見える。 「…ふむ」 「趣味に、合えば…いいのですが……」 不安そうに見つめながら眉を下げる名前をちらりと見ると再び笑った。 「え、鷹の目さん?」 「クク…気に入らないわけがない。おれの好みは把握しているだろう?…名前、」 「はい!?」 箱をテーブルに置くと名前を呼びながら抱き寄せる。状況がわからない名前はされるがままに鷹の目に抱き締められた。 「た、たかの、えっ、えっ?!」 「ありがとう、名前。…一生、大事にしよう」 「き、きにいって、くれた、なら、よかった、です、はい、」 「…礼がしたい」 「礼なん、……!?」 片手は腰に、もう片方は顎に添えられ、上向かせると唇が重なる。 暫く硬直していた名前ははっとすると慌てて鷹の目の胸を押すもびくともしない。唇を食むようにちゅ、ちゅ、とリップ音を響かせると名残惜しそうにゆっくりと離れた。 「…もう少ししたかったのだが、」 「いま、なに、ちゅう、して!?」 「? ああ、口付けたな」 腰に添えた手はそのままに、名前の顎を撫でるように指を滑らせる。肩をびくりと跳ねさせたのを見ると楽しそうに目を細めた。 「名前…本当に欲しいものをくれないか」 「!」 「おれはぬしが欲しい。名前が欲しい。恋い焦がれてたまらぬ」 「…それ、って」 「ああ、おれは名前を愛している。…好きでもない女の家になど行かぬだろう。…返事は?」 「…わ…わたしも、すき、です」 ぽかんとしたままの名前に返事を促すと驚きすぎたのか、素直に好意を告げる。その言葉に満足そうに頷くと再び名前を抱き締めた。 「焦がれた者を手に入れた…今日と言う日に感謝しよう」 ハッピーバースデー!!! 20130309 |