「楽しそうね」 穏やかな表情をする彼に彼女は言った。椅子に座る彼は足を組み、肘をつきながら珈琲を一口啜る。 「そうか?」 「ええ。やっぱり弟子って嬉しいの?」 「…そうかもしれんな」 「そうなんだ。…妬けちゃうな。今までは私だけのミホークだったのに」 何だか私子供みたいね、と苦笑しながら立ち上がった。 「みんなのご飯作らなきゃね。今日は何にしようかしら。ペローナはゾロの所かな、訊きに行っ…」 ドアに向かって歩き、彼の横を通り過ぎた瞬間に腕を引っ張られ、体勢を崩して彼の腕の中に納まった。脚の間に座った彼女は後ろから抱き締められる。 「…ミホーク?」 「喜ばしいことがもう一つ」 「?」 「名前が素直になった」 「っ、」 耳に軽く口付けながらそう言うと、途端に赤くなる。喉の奥で笑った。 「…もう。二人だけだったらこんな感情なかったわ」 「だろうな」 「…私が嫉妬するのわかっててこの部屋を出るのよね。意地悪」 「おれが恋しくなるだろう?」 「…ええ、とても!」 悔しいけど、と彼女は言う。 「こういうことが無かったからな、愉快だ」 「やな人」 「そう怒るな、名前」 「怒ってないわよ」 「おれが、」 「…?」 いつも想っているのは名前だけだ。 (っ!) (何をするにしてもまず名前を思い浮かべる) (…恥ずかしい) (離れている時は常に頭から離れん) (も…もういいからっ) (こうして一緒にいる時は名前以外考えたくない) (わ…わぁあああ!やめて!) ((愉快)) (ホロホロ…!見てるこっちも恥ずかしい…!) (おい、何してんだ部屋の前で) (バッ!来るんじゃねえ!) (鷹の目!さっさと出て来…むがっ) (バカー!) (…外が騒がしいわ) (嗚呼、そろそろ行かねば) (……) (名前) (なに…ん、) (夕食楽しみにしている) (…うん) |