今日もゆらりと、進路は波に任せて小船は進む。


「…ひ」

「暇とか言ったら怒りますよ」

「…まだひしか言っていないが」

「その次の言葉は?」

「……まではないな」

「……私はとても暇です」

「そうか、…おれは瞑想で忙しくなりそうだ」

「そうですか、…では帰り」

「ならん」

「…まだ帰りしか言っていませんが」

「その次の言葉は?」

「……ません」

「……」

「…あれ?…ちょっとミホーク?…此処はおれは帰りたいとか言わないと」

「……」

「本当に瞑想始めたのか。帰れないじゃん…」


腕を組み目を瞑っているミホークを見てたら溜め息しか出ない。本当に自由だなこの人はー…。
海を眺めても空を眺めても…たいくつ。今日は何で連れ出されたんだっけ?
一昨日はオーロラが発生したぞ、とか言って夜中に連れ出されたなあ。…キレイだったから不覚にも感動したんだけど。
昨日は平和だった。一日中読書出来たし、溜まってた家事も済ませた。
今日は…あれ、思い出せない。気付いたらこの舟に乗ってた気がする。


「…寝てる間に拉致られた…?!」

「拉致とは人聞きの悪い」

「! あら、瞑想終わったの?」

「ああ」

「…で、拉致したのね」

「拉致とは」

「人聞きの悪い?」

「…ただ連れ出しただけだ」

「同じよ!」

「同じではない。拉致とは無理矢理連れてくことだ」

「連れ出すは誘って一緒に行くって意味だった気がするけれど」

「寝ている間に行くぞと声をかけた」

「聞こえるか!」

「それに寝顔が肯定しているような気がしてな」

「寝顔が?!…ああもういいわ…」

「今承諾されたぞ」

「違うわ!…世界一に突っ込む私って…」

「ほう、ならば名前のツッコミは世界一を越えたな」


返す言葉を考えられないほど脱力感が凄いので土下座の形を取ってみる。


「…どうした、そんなに縮こまって」

「…ミホークはどうしてそんなに…はぁ…も、いいです…」

「?」

「…何処までもお供します」

「そうか、ならばこのまま放浪しようではないか」

「…!?」
「何もせず揺られるのもいいものだ」




ら揺れて揺れて。



(ミホークいつか餓死しそう)
(そんなヤワな鍛え方はしてないぞ)
(…じゃあ私が先に餓)
(その前に島に立ち寄るから案ずるな)
(…お腹空い)
(今朝買ったパンをやる)
(…くっ…)
(死角はない)

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