海上は夜になると冷える。それが心地良いからと名前はよく甲板に出ていた。



えた指先、暖めて。



今夜もそうだと思って甲板に出れば案の定。風上に向いて突っ立っていた。


(…驚かしてみようかい)


足音を殺してそっと近付く。名前が音に気付いて振り向いた時にはもう遅い。後ろから抱き締める。


「っっ!!」

「…イイ夜だな?」

「ま…っ!」

「ん、風呂上がりかよい?いーい香り…」

「っ……マルコ隊長…」

「びっくりした?」

「したも何も!」

「あーあ、冷てぇじゃねェかい」


半袖から露出している腕に触れればすっかり冷えていて、体温を全く感じられない。マルコは自分の腕を名前の腕に密着させ、手の甲を覆うように握る。


「…あったか…」

「名前が冷えすぎなんだ。折角風呂入ったのに」

「……。あ、風が私を呼んでいたから」

「……」

「…ツッコミをください、隊長」

「あ?…あぁ、ハイハイ」

「いやそれツッコミじゃないですし。返事は一回が基本ですよ」

「…うるせぇよい」


名前の弱い脇腹をくすぐってやる。


「あははは!ちょっ、隊長!やめ、うあっははは!」

「参ったかい」

「参ってますからやめてやめてー!」


笑い続ける名前は前のめりになって手すりに掴まる。マルコから逃れられたと思ったのも束の間。詰め寄られて逃げ場を失った。


「はあ…っわ、笑い疲れました…」

「笑うことはいいことだ。体も暖まっただろい」

「…あ、そういえば…。ありがとうございます。それじゃ、私部屋に…」


戻ります、と言葉を発する前にグイと手すりに押し付けられる。


「…マルコ隊長…?」

「……」


目の前には手すり、後ろにはマルコが、オマケに左右もマルコの腕で塞がれている。どう逃げようかと考え始めたらふう…と耳元で吐息が聞こえ名前の息が上がった。


「ま、マルコ隊長、此処外ですからね…?」

「そうだなァ。それがどうしたい?ナニを想像してんだ…?」

「ぁ…っ!」


低い声が名前の耳元をくすぐる。


「…!!」

「名前…」


名前を囁きながら腰へと手を回し、更に体を密着させる。冷えていた体が徐々に熱を持ち始めた。


「た、隊長…」


制止されてももう止まらねェよい、と考えながら服の中へ手を…


「…此処は嫌。…隊長の部屋に行きませんか…?」


入れようとして自分の耳を疑った。いつもはどうにかして逃げている名前の口から部屋へ行こうと誘われている。マルコの手が止まった。


「隊長…お願い」


トドメの言葉。
短くおう、とだけ返事をして名前を抱き上げ、部屋へと向かう。抱き上げられた名前はマルコの首へと手を回して抱き付いた。


(…珍しい。珍しすぎる)


部屋に入り、迷わずにベッドに押し倒しても顔を少し赤らめただけで特に抵抗は見せない。いつもは…と考える前に名前が口を開いた。


「隊長…」

「…何だい、んなしおらしくなって」

「…しおらしく見えました?」

「ああ、何かあったか?」

「…や、何も無いですよ!」

「…おま、隠すの下手…」

「!」

「話してみろい」


名前の横に寝転がるとすり寄ってきた。二人で寝転がるには狭いベッドで向き合う。そっと髪を撫でて名前の反応を見…。


「…なんか」

「ん?」

「…隊長に撫でてもらったらどうでもよくなりました」

「…そうかい」


名前は笑いながらマルコの頬に手を当てた。ひんやりとした手に体温が奪われる。


「手はまだ冷えてんのか」

「そうみたいですね。隊長のほっぺ、暖かいです」


頬に添えられた手を掴むと親指を握られた。そのまま名前の手の甲を覆うように握り、指先に口付ける。


「ふふ!くすぐったいです」

「…そうだ、マッサージしてやろう。血行良くなって暖まるぞい」

「ん、お願いします」


マルコは名前に自分に背中を向けるよう指示し、後ろから抱き締める。片腕は名前の腕枕にし、枕になっている手ともう片方の手で名前の手を包み込む。
指先で手のひらの中心を軽く押すように撫で、外側に向かって押していく。


「あ、それ気持ちいい…」


手に熱と感覚が戻っていくのを感じながら名前は目を瞑る。暫くして反対も、と手を出した。マルコは隊長に向かって…と言いながらも同じようにマッサージをした。

不意に指を絡められる。


「っ…!?」

「…隊長、ありがとうございます」

「…あァ。やっと暖まったな」

「隊長のおかげですね」


内心ドキドキしながら絡められた手を握り、名前の手が暖かくなっているのを確認する。


「…あ、暖まったせいか寝そうです、私…」

「これから甘い時間を…」

「無理です、おやすみなさーい…」

「あ、オイ名前?」


制止虚しく、すぐに規則正しい寝息が聞こえてきた。何度名前を呼んでも起きる気配はなくマルコは苦笑する。


「起きないならイタズラするよい」


耳元で囁いても寝息は変わらない。それなら…と服の中に手を侵入させ、弱い脇腹を撫でても起きる気配はなし。
これならどうだ、と体のラインを撫で、胸へと手を移動させ軽く揉むが。


「すーすー…」

「…名前ー…」


無反応。マルコはイタズラを諦め、強めに名前を抱き締めて目を瞑った。


(起きたら覚悟しろよい)






20100518
Various@10000hit記念フリリク。
マルコ/甘えたヒロイン微裏/鈴様

あ、甘えるとは微裏とはどういうことだ…!なんて思いながら書かせて頂きました←
ヒロインが起きたらきっと美味しく頂かれますね(^ω^)
リクエストありがとうございました!
フリリクなのでお持ち帰りは自由です。
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