…人の叫び声で目が覚めた。
自分の部屋を与えてもらってから夜出歩くことはなかったから特に気にすることもなく(どうせいつもの略奪でもしているんだろう)、もう一度眠ろうと体をよじ…


「ん…?!」


よじれない。
というか、体が動かないうえに口に何か詰め込まれてる。
何が起こっているのかと辺りを見回すと見慣れない影が二人分確認出来た。


「お、お嬢ちゃんおはよう」

「ばっか、こんばんはだろう」

「どっちでもいいわ!お嬢ちゃん、船内に残ってるってことは戦闘要員じゃないんだな?」

「しかもおれらに気付かずスヤスヤ寝て」

「戦闘経験も無いと見た」

「しかもこの部屋はクリークの部屋の隣」

「余程大事にされてると見た」

「しかも…」

「うるせぇ!もういいわ!とにかく、運が悪かったなお嬢ちゃん。連れてくぞ」

「おうよ」


…男二人は一気にまくし立てて私を担ぎ上げた。
甲板では戦闘中らしく、賑やかな音で男二人の行動には気付かない。
今抵抗してもどうせ負ける。なら、動かないでその時を待たなければ。
男二人は船尾につけていたであろう小型の船に私を運んだ。船は黒く塗られていて夜の闇によく溶け込んでいる。
…これはまずいんじゃないんでしょうか。戦闘音は相変わらず、船は密かに出航した。


「このお嬢ちゃんが大事だとして、どうやってクリークを脅すんだ?」

「ばっか!そのために電伝虫置いてきたんだろうが!」

「あぁそうか。で、どうすんだ?」

「…それはあれだ!よくある人質とお宝交換…」

「交換した瞬間殺されるぞ」

「……」

「…なあ、大人しく返し」

「ばっか!!今戻ったら見捨てた仲間からも蜂の巣だ」

「…ならいっそ」

「あぁ、ならいっそ…」


…ならいっそ?
何かしら、この人たち私を見てるわ…どうしましょう、嫌な予感しかしないわ。
どうしましょう、兄様…ギンさん…!


「ならいっそ、どうするんだ…?」

「「ヒィッ?!」」

「んんんっ…!」

「うちのクルーだ、返してもらおうか」

「チクショウ!泳いできやがったのか!」

「この距離だ撃ち殺…せ…っ?!」


ゾクリと背筋が凍る。
海水に濡れた鬼人と呼ばれるその人は月明かりに光り、あっという間に男二人を葬った。










「…ありがとう、ギンさん」


口に詰め込まれた物を取り出してもらい、縄も解かれる。変な体勢だったからか体中が痛い。

「いや、名前が無事ならいいんだ」

「…ごめんなさい」

「謝る必要ねぇよ。首領も待ってる。帰ろう」


ああこの人は。
鬼人と呼ばれているのに何でこんなに優しい一面もあるのでしょう。…好き、好き…!


「ギンさん…っ!」

「名前っ?!」


これは想像じゃない。
濡れて冷えてる体がよくわかる。私の(例えクリークの妹だからという理由でも)ためにわざわざ泳いで。


「ありがとう…怖かった…!」

「名前…」


そのまましがみついたら抱き締められた。


「…ギンさん…」

「ん、此処にいるから安心しな」

「うん…うん…!」


夢にまで見た彼の温もりは海水のせいで冷えていて、夢にまで見た彼の香りは潮の香りしかしなかった。


「ギンさ…ん…っ!」

「…悪い。怖い思いした後なのにな…泣き顔はそそられる…」

「ん、…っ」

「潮の味だ…」

「うん…っ、ん…」


口の中いっぱいに潮の香りが広がる。…やっと、ギンさんに口付けられているんだと気付いた。
後頭部を押さえられながら意外と分厚い舌に絡め捕られる。波の音と口内の音が響いて脳内を支配していく。


「ん、ふ…ギ…ンさ…っ」

「…はぁっ…名前…!」


ドサ、と倒れされた。
見上げれば逆光のギンさんとガレオンの船首。

…ガレオンの船首?


「総隊長ォー!」
「名前ちゃーん!」
「ギンさんばっかりズルいですよー!」

「…!」

「…あははっ、何か邪魔されたみたいです」

「そうだな…」

「…続きはまた今度」

「!?」

「今度は私の気持ちを伝えます」

「…おれの気持ちも聞いてくれよ?」

「勿論!」


二人で笑ってガレオンへ上がる。
今度がいつかなんて気にしない。この航海が続く限り、今度なんてすぐに来るんだから。




end?   ↓




(ギン…)
(…!!)
(てめェよくもおれの妹に…!)
(アンタこの前「さっさとくっつけ」って言ったじゃないか!公認だ!)
(兄様そんなことを?!)
(うるせぇ!)
(いくら首領でもこれだけは譲れねェ!名前はおれがもらう!!)
(ギンさん…?!)




end!


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