ギンさんという護衛がついてまた数日経った。
妹だということは伏せて船員たちに挨拶して回った時は目を丸くして見られていたけれど、乗船していることに誰も反対しなかった。
…首領と総隊長が一緒に居るんだから当たり前だけれど。

挨拶が終わってからはギンさんに船内の案内をしてもらったり、防衛の仕方を教わったり、内心ドキドキしながら日々を過ごしてる。
最初は話せるだけで満足だったのに人間て欲が出るのね。もう少し、あと少し、距離を縮めることが出来たなら。


「ギンさん!」

「ん?」

「キッチン借りてクッキー作ったの!食べて下さい!」

「ん、…お、美味いじゃねぇか!」

「心を込めて作りましたから」


(総隊長だけズルいよなあ)
(ありゃ絶対ギンさん狙いだ)
(首領も名前には甘いってよ)
(マジでか。くっそ、おれら手出し出来ねー)
(いつか散る命なら夜這いを…)
(やめとけ。あの二人に拷問されて殺されるぞ)
(いいなあ、名前ちゃん可愛いし)


「…名前」

「はい」

「…視線が痛いんだが…」

「あ、忘れてた。皆さんの分も焼いてありますのでキッチンへどうぞー!」


うおおおおお!!


「…流石、首領・クリークの妹だな。一声でまとまるとはなァ」

「そうでしょうか。ギンさんのが凄いですよ」

「何言ってんだ。名前のが」

「いえ、ギンさんのが」

「名前だ」

「ギンさんです」


こんなささやかな言い合いも幸せに感じる私は相当重症なんだろう。







ギンさんが笑いながら頭をぐしゃぐしゃ撫でてくれた。
…あと、少し。思わず手を掴んでしまった。


「…名前?」

「…あっ、ごめんなさい…!」


慌てて手を離すと。


「…ギンさん…?」


撫でてくれた手はそのままで、今度は私が問い掛ける番になった。
頭がじんわり暖かくなっていくと同時に心拍数が上がり、顔も火照ってくる。
…と、頭にあった手が髪を撫で、頬に触れた。


「…!!」

「…名前」


名前を呼ばれてギンさんの目を見据える。真っ直ぐな瞳が近付い…







「名前?名前?」

「?!はい何でしょうか!」

「どうしたボーっとして」

「何でもないです…!」

「そうか。クッキー美味かった、ありがとう」

「いえいえそんな…」

「今夜は冷える。暖かくしろよ」

「はい、ギンさんも…おやすみなさい」

「あぁ、おやすみ」


…何て想像をしてしまったのだろう。でもでも、せめて想像では近くに。



「…名前」

「兄様…いつの間に」

「口元緩んでるぞ。いつになったらギンをモノにするんだ」

「モノになんて…!」

「早くしねェと他に取られるぞ」

「……!」


…ギンさんに伝えなきゃ、いけないのかなぁ…?


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