…航海して数日。
兄様の部屋は広く、シャワーもあって生活には困らないけれど…。ギンさんは総隊長らしく、ほとんど毎日のように部屋に来る。
ギンさんが来ている時はシャワー室のバスタブに身を潜めて出て行くのを待つ。
すぐそこにいるのに…!
もどかしい気持ちを抱えながら兄様との会話を聞き思う。いつになったらあの声を私に向けてくれるのかな…。


「…ハァ……」

「……!」

「ん?どうした、ギン」

「…首領・クリーク、失礼」

「…?!オイやめろ!!」


バキッ…!


たぶん、バスタブが粉砕したんだと思う。凄まじい衝撃と共に私は意識を失った。




…………………




「…名前!名前!」

「申し訳ありません…!」


私を呼ぶ兄様の声と、ギンさんの声が聞こえて目を開ける。


「…兄様」

「気が付いたか…!溜め息なんかつきやがって!死ぬとこだったぞ!」

「…溜め息?」


ついたかもしれない。


「大丈夫か…?」


…あ、ギンさんがこっちを見てる。…どうしよう…!
心臓が壊れてしまうのではないかと思うくらい高鳴る。落ち着け私。大丈夫…!


「だ、大丈夫です…!」

「! そうか、それなら良かった!」

「ハァ…乗せなきゃ良かったなァ…」

「…兄様があの島に立ち寄るのが悪いのです」

「ハァ…」

「…首領、本当にこの子が妹で…?」

「あぁそうだ」


兄様と私を交互に見つめるギンさん。まあ確かに似てはいないけれど、そんなに見つめられると恥ずかしい…。
横になっていた体を起こす。…幸い、そんなに怪我はしてないみたい。


「あの小さな溜め息で気付くなんて、流石です。鬼人さん」

「?!」

「…あぁ、お前のことが知りたいって言っていたから色々教えてある」

「おれを?」

「兄様…!」

「どうしてまた」

「ククク…さぁ何でだろうな?名前」

「わー!やめて下さい!」

「?」

「ククク…あァ、ギン」

「はい」

「仲良く、してやってくれ。ついでに護衛を任せる」

「わかりました」

「…護衛って…」

「ギンに聞いた。町で絡まれたんだろ。また絡まれたらどうする」

「…はい。宜しくお願い致します、ギンさん」

「あぁ」

「…ギン、もう一つ」

「はい?」

「壊れたバスタブ代はお前の取り分から抜いておくからな」

「?!!」


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