カラコロカラコロ、下駄を鳴らしながら彼女の元へ。


「イッショウさん!」


耳に心地よく響く声に口元を緩ませながら彼女の名前を呼んだ。


「名前…、待ちやしたか」

「いいえ。時間前ですよ。ほんと、時間に正確ですね」

「そりゃァ、好きな者に会えるなら早く行動するでしょう…見えないなら尚更」


名前の頭一つ分上に向かって告げるとくすくすと小さく笑う声。首を傾げて疑問符を浮かべる。


「はて…何かおかしいことでも?」

「いいえ。私はもっと下ですよ、イッショウさん」

「こりゃ…失礼」


更に下を向くと、ようやく名前がイッショウの目元と視線を合わせることが出来た。二人は嬉しそうににこりと笑う。


「それじゃ、イッショウさん。行きましょうか?どうぞ、」


イッショウの左腕を自分の腕と組ませるとゆっくりと歩きだした。









「今は町中を歩いています。石畳なので、転ばないように気をつけてくださいね」

「ええ、…いい匂いが、」

「左手側、少し歩いたところにパン屋さんがあります。その先にレストランとカフェですね。…あ、もっと先のほうにおにぎり屋さんも」

「食事処が並んでいる、と」

「はい。あ、でも、今日は入りませんからね?」

「勿論。今日は名前があっしの為にと弁当を作ってきてますし」

「自分以外にお弁当なんて初めて作りましたよ。…あ、此処を右に曲がると公園です」


はい、と柔らかい声色で頷くと名前の指示のもと道を曲がる。道の横にある花壇には何が咲いている、鳥が本部のほうへ飛んだ、街路樹の葉は落ちそうだ、…全てを丁寧に説明されながら、イッショウは穏やかな笑みを浮かべた。


「公園に着きましたよ。んー…あ、左側のベンチが空いています。そこでお弁当食べましょう」

「ええ」


歩きながら再び名前は説明をしていく。はしゃぐ子供、犬の散歩をしている人、ダンスをしている人達…広場から少し離れたベンチに着くと説明をやめ、待って下さいね、と声をかけた。
大きめのトートバッグからシートを取り出すとベンチに広げ、イッショウの手を取って座らせる。名前が隣に座るとにこにこと笑った。



「…イッショウさんの笑顔って可愛いですよね」

「そうです?…名前の笑顔のが可愛いと断言出来るんですけどねぇ…見たことはなくとも、触れた感じでわかります」

「もういいでしょってくらい触りますからね、イッショウさんほんとセクハラです」

「セクハラなんて…これが唯一のスキンシップでさぁ」

「…そう言うと何も言い返せないし」


苦笑しながらバッグから弁当箱を取り出し、ウェットティッシュで互いの手を拭くと、包んだおにぎりをイッショウに手渡す。聞いておいた好みの具を入れてあると告げると、手を握りながら包みを開かせた。
弁当箱に入っているおかずを教え、食べたくなったら言ってくださいね、と少し上擦った声で言う。


「…成程、名前が食べさせてくれる、と」

「言わないでください今更ですが恥ずかしいんです」

「名前が食べさせてくれる、と」

「イッショウさん!」

「顔が赤い」

「何でわかるんですかもう…食べさせますから、早く食べましょ」


自分のおにぎりの包みを開くとぱくり、と食べた。楽しそうに笑うイッショウも一口、二口と食べ、名前を呼ぶ。


「名前、」

「……何が食べたいんです?」

「名前が一番、あっしに食べて欲しいと思いながら作ったものを」

「…!?」

「さあ、」

「…っ、ほんとに、貴方って人は、もう、」

「名前」

「もう、恥ずかしい人、…はい、あーん!」


真っ赤になった名前は箸をイッショウの口に運び、すぐにそっぽを向いた。ゆっくり租借し、名残惜しそうに飲み込んだイッショウの感想は勿論。






『愛を感じました』

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