恋をしました。


恋い焦がれるあの人は兄の右腕。一目見た時から私は虜。無理を言って船に乗せてもらいました。


首領・クリークが兄だというのを伏せてそれなりに暮らしていたのですが、ある時、兄が私の暮らしていた島に上陸しました。
とてもびっくりしましたが、兄は私がいると知ると略奪は行わないで普通に買い物やその他諸々、比較的平穏に過ごすと宣言されました。
島の方々は驚きながらも普通に接しようと努力していました。

無害だと判断したので自分の買い物を済ませようと町へ出たのですが、それがこの艦隊に乗るキッカケになるとは…。




「お嬢ちゃん、あの首領・クリークがこの島に上陸しているのは知っているよなぁ?」

「ええ、勿論」

「なのに暢気に買い物か。おれたちは海賊だぜ?」

「ええ、存じております」

「オイオイ…意味わかってんのか?」

「首領・クリークに知られる前にさっさとヤっちまおうぜ」

「そうだな…そういうことだ、お嬢ちゃん。世間知らずな自分を恨みな」


兄様の手下でしょうか。路地裏に連れ込まれ、二人に囲まれて買い物どころじゃありません…
オマケに私は何かされるようです。…どうしましょう。兄の名前を出しても信じてはくれないだろうし…


「オイ、何やってるんだ」


困っていると声が聞こえました。囲っていた二人は顔を真っ青にさせて声のした方へ向き直ります。


「「ギンさん…!」」

「…ここの人間に手出しするなと命令されているはずだが」

「すみません…!」

「だ、大丈夫ですよ、手出ししてません…!」

「そうか。さっさと船に戻れ」

「「はい!」」


二人は逃げるように走って行った。
私を助けてくれたギンと呼ばれた人が近付く。…何故か鼓動が早くなる。


「大丈夫か?すまない」

「…大丈夫、です…ありがとうございます」

「首領・クリークが宣言したからと言って全員が従うとは限らないんだ。気を付けな」


ポンと頭に手を乗せられた。
見上げると隈が目立つ顔が見え、更に鼓動が早くなる。何だろうこれ。


「はい…!あの、」

「ん?」

「えっと…私、名前といいます」

「おれはギンだ。じゃあな」

「あ…」


行ってしまう。
もう二度と会えないかもしれないのに…!そう思いながらも彼の背中を見送るしかなかった。

その夜。
どうしたらギンさんに会えるか、どうしたら兄様に会えるか、どうしたらあの艦隊に乗れるか…考えた結果、昔兄様に聴いてもらった曲を奏でて気付いてもらうことにした。
艦隊に届くよう風上で笛を吹く。


(どうか気付いて…)







「…ん?」

「…笛?」

「この曲は…」

「首領・クリーク、ご存知ですか」

「あぁ。…暫く船を任せる」

「お一人で?」

「当たり前だ。夜明けには戻る」

「はっ!」









(お願い気付いて…)


願いを込めて音色を奏でる。
すると、背後から音がした。期待しながら振り向くと昔とは大違いの、今では首領とも呼ばれる兄様がこちらに向かって歩いてきた。


「随分上手くなったなァ、名前」

「…兄様…!」

「おれの妹だと知れたら海軍に捕まるだろ。どうして呼び出した」

「お願いがあります。私をあの船に乗せて下さい…!」

「あァ?!」


久々に会って挨拶もせずに無礼なことを口走ってしまったほど、私は本当に必死だった…。



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