仲間が海賊に囚われたと聞いて頭はすぐに港に向かった。港には仲間が一人とそれを取り巻く大勢。


「海賊!私の仲間を帰してちょうだい」

「ん?お前さんが頭かい」

「ええ、そうよ」


キッと女頭が睨み付けると男は笑った。


「…アナタが船長かしら。侮辱された気分だわ」

「珍しくてな、笑ってすまん。それとおれは船長じゃァねえよい」

「用件は?」

「用件?」

「人質なんでしょう?何が要るのよ」

「まさか、コイツが勝手に斬りかかってきたんだ」


女頭は目を丸くして男の近くで座っている仲間を見た。仲間は女頭の顔を見ずにそっぽを向く。


「…本当みたいね。…うちの者が失礼致しました」


さっと頭を下げる女頭。長い髪がサラサラと落ちる。女頭が頭を上げた時、その手には銃が握られていた。


「お嬢助けてくれ…!」


銃口の先には座っている仲間。パン、と破裂音が響いた。


「……!?」

「仲間、だろい。何で撃つんだよい」


銃弾は男の腹に当たり、出来たであろう傷口からは何も出なかった。代わりに炎が男を纏う。


「な…能力者…」

「仲間は大事なはずだろ」

「仲間?うちのルールを破ったのよ。和を乱す奴は殺せと先代からのお達しは守らなきゃいけないの。海賊は黙ってて」

「…そうかい」


男は火の鳥となって女頭に近寄った。


「私を焼き殺す?」


飛んでくる男を眺めながら不敵な笑みを浮かべた。男は女頭の前で人に戻り、目の前に立ち塞がる。


「…どきなさいよ、海賊」

「アイツを殺してェならおれを殺してからにしな」

「…無理に決まっているでしょう」

「なら諦めることだな。お嬢ちゃん」

「ちゃん付けしないで!…ハア…アナタ頑固そうね。わかったわ。その代わり、アイツをうちから追い出すわ」

「おう、良かったな、お前。それと、戻っていいぞい。女頭は消えたとでも言っておけ」

「はい?何言ってるの」

「仲間がどんなものかを教えてやるよい。うちに来い」


男は女頭の手をとって船へと向かう。


「ちょ…海賊になんてならないわよ!」

「海賊も山賊も本質は違わないだろい」


グイグイと引っ張られる女頭は抵抗するが、男に敵うわけもなく船に引きずり込まれ、助けを求めて振り返れば仲間だった者がすごすごと立ち去って行く姿が見えた。引っ張られた先は大男の部屋だった。


「オヤジ!娘候補だ。山賊の女頭だった」

「何だ、遅いと思ったらナンパか。グララララ!」

「これがうちの船長で、オヤジだ」

「……」


女は大男を見上げて呆然とした。


「…まさか白ひげだとは」

「ほう、山賊でも知ってるんだな」

「有名人じゃない。それより降りるわ」


男はまだ手を離さない。


「おっと、そうだ。自己紹介がまだだったな。おれはマルコだい」

「…名乗る気なんて無いわ」

「まァ、気長に仲良くしてこうよい」


船が動く音がした。女は辺りを見渡し、まさか、と呟く。


「ああ、マルコで最後だったんだ」

「嫌よ降ろして!」

「それは無理だない」

「諦めろ。グラララ!」


女はうなだれ、床にぺたんと座り込んだ。



楽しい愉しい船旅の始まりです。



(信じられない。……吐く)
(!?)
(あぁ、だから山賊を?グラララ!)
(ち、ちが……)
(待ってろ、ナース呼んで薬持ってくるよい!)
(早くしなさいよ…!)
(グラララ。慌てるとは情けないなマルコ)
(う、うるせェよい)
(部屋汚すなよ嬢ちゃん)
(うう……!)
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