「…海賊だ」

「…まァ、山賊ではないわな」

「初めて見ました、海賊」

「そうか。…別に見世物じゃないんだが」

「あっとごめんなさい。私名前です」

「おれはベックマンだ。暫く宜しくな」

「はい。宜しくしちゃいます」


ベックマンが港でタバコを吸っていると少女が話しかけてきた。親しげに話す少女は名前と名乗り、興味深そうにベックマンを眺めは謝りを三度ほど繰り返した。


「…名前」

「はい。初の海賊からの呼び捨てです」

「…そんなまじまじと観察されてもな、何も無いぞ」

「あ、そうなんですか?」

「海賊を大道芸か何かと勘違いしてないか?」

「ごめんなさい。そんなつもりは少しあったんだけど」

「あったのか」

「はい」

「……」

「……」


名前はにっこり笑いながらベックマンを見上げる。沈黙の中でベックマンはタバコをもみ消し、二本目のタバコに火をつけた。
すると町のほうからぞろぞろと船長を始めとして赤髪の船員たちが戻ってきた。


「オーイ、買出し行ってきた…ぞ?」

「お頭…妙なタイミングで戻ってきたな」

「なんだ、彼女か」

「お頭…船長ですか?」

「ああ、おれが船長だ。どうした?ナンパでもされたか?」

「はい。ナンパしました」

「そうか。良かったなベックマン。荷物を積み込んだら各自自由行動だ」


おお、と船員達は邪魔をしないようさっさと船へ荷物を積み込む。シャンクスはそれを確認しながら見上げている少女を見下ろした。


「初めまして、船長さん。名前です。初めての海賊の船長さんです」

「シャンクスだ。初めての海賊はベックマンに先越されたみたいだな」

「はい。初めてはベックマンにプレゼントしました」


ため息をつくベックマンとは対象に盛大に笑うシャンクス。名前はきょとんと二人を交互に見上げる。


「はっはっは!随分面白い子に懐かれたな!」

「よしてくれお頭…名前は頼んだ」

「あ、だめです」


二本目のタバコを消して船に戻ろうとしたが、名前に服を掴まれ阻まれ、二度目のため息も漏れた。


「お頭に構ってもらえ」

「嫌です」

「名前ちゃん、地味に傷つくぞそれ」

「お頭に」

「お断りです」

「…オイ…」

「ベックマンじゃないとダメなのです」


名前は引き下がらず、シャンクスは仕方なく船に戻っていった。ベックマンも途方に暮れながらどう船に戻るか考える。


「…迷惑、ですね!また明日、少しでも会ってくれたら嬉しいです」

「あ?…待て、名前」

「では!また明日に!」


眩しい笑顔で見上げて少し走って、振り向いて手を振る…一連の動作がどことなくぎこちなく、ベックマンは違和感を覚えながらも苦笑しながら手を振った。


「…また、明日か」





見上げる少女




(…仕方ない、また明日会ってやるか)

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