【太陽とキス】


「お、やっと上がってきたな!」

海面に浮上した彼女に向かって嬉しそうに笑いかける。

「待ちくたびれたぜ。おれ泳げねえし」
「…待たなくていいのに」

嬉しそうな笑顔は太陽のようで、彼女は自然と目を逸らした。

「…私は泳いでいくわ」
「なんだよ。折角なんだし送ってく」

ほら、と手を差し出されても目を逸らしたままの彼女は首を振る。


「…私、泳いでいく」
「…素直じゃねえなあ。いいじゃねえか。送ってくから、ほら」
「…貴方濡れたら力出ないじゃない」

頑なに拒むと大きな溜め息が聞こえた。ああ、やっと諦めてくれると思うと腕を掴まれ、勢いよく海中から引き上げられる。

「ちょっと…!」
「おれが一緒に行きたいんだよ。わざわざこっちに浮上したってことはそれなりに気があるからなんだろ?…なァ、人魚さん?」

両手を脇の下に入れられ、逃げられない彼女の脚は魚だった。光に反射して輝く鱗は紫色で艶やかに動く。

「…エースさん、降ろして」
「イヤだね。いつものとこまで一緒に行こうぜ?ま、拒否っても連れてくんだけど」

ニカ、と彼女に笑いかけると肩に担ぐと、仕方なくというようにため息をついて掴まってヒレをぱたぱた動かした。よーし、行くかと笑いながら能力を使うとストライカーが走り出す。風を切るように走るストライカーは濡れていた彼女をあっと言う間に乾かした。

「…早いですね」
「流石おれだろ?」
「この装置を作った人に拍手を送りたいです」
「素直じゃねえな…おれが凄いって褒めてくれよ」
「お断りです」

そっぽを向いた彼女にひでえ、と笑うと速度を上げる。すると、彼女のしがみつく手に力がこもった。

「どうした?」
「なんでもないです」

意地悪そうに笑いながら彼女に問いかけるもそう答える。上がったままの口角は楽しそうに彼女の名前を呼ぶ。

「なんでもないって言ってるじゃないですか」
「それなら何でこんなにしがみついてるんだ?」
「しがみついてなんか、きゃああ!」

ぼ、と火が上がった瞬間に速度が更に上がった。落ちまいと必死にしがみつくのを見ながら緩みっぱなしの表情で速度を落とす。

「エースさん…!」
「ん?怖かった?」
「……っ、こわ、怖かったに決まってるじゃないですか!意地悪するなんて、ひどいです!もう降ろして!絶対一緒に帰らない!」
「オイ、暴れん、な、うわ!」

担がれた彼女は体を捻って暴れ、バランスを崩した拍子に海へ飛び込んだ。一緒に倒れるように海へと倒れ込んだエースは意識を手放し、暗闇へと身を任せる。









「…んぁ?」

ぱちり、目を開いたエースは夕焼けのオレンジに染まる空を視界に入れた。

「…あれ?」
「…やっと気付きましたか」

ふてくされたような声で呟いた彼女は岩場に寄りかかるように座って不機嫌そうにエースを見る。

「…あー…海に落ちたのか」
「……」
「それで、お前が助けてくれた、と」
「……私が暴れなきゃエースさん落ちませんでした…ごめんなさい」

腹筋に力を込めて起きあがると今にも泣きそうな声で俯く彼女に苦笑した。いいって、と言いながら立ち上がり、大股で近付くと隣に座る。

「無理矢理担いでごめん」
「………」
「どーしても一緒にいたくて。…そんなに嫌だとは思ってなくてさ、」

はは、と膝を抱えるように座りながら彼女を見た。彼女は目を見開いて瞳を潤ませる。

「ん!?何で、泣くんだよ?!」
「ばっかじゃないの!?嫌だったけど、そこまで嫌なわけじゃなくて、暴れたのは、貴方が速度上げて、意地悪したから、…っ、もう知らない!」

砂浜を這って海へ飛び込もうとしたのを軽々と抱き上げられた。

「ストーップ。…意地悪したから暴れただけ?」
「…そうです」
「こう、一緒に帰るのは嫌じゃねえの?」
「………嫌じゃないです」
「まじか!」

ぱあっと表情が明るくなったエースは彼女を見つめる。

「なあ、じゃあ、明日も…ログたまるまで毎日一緒に、」
「…ログ、たまるまで…」
「あわよくばこのままおれと一緒に行こうぜ」
「…え?」
「おれが担いでてやるからさ、モビーディックに行こう」

目を見開いてエースを見上げ、考えるように唇を結ぶ。

「…私、人魚」
「関係ねえよ。一緒に行こう!」
「……だって、」
「だっては無し!これ以上言うなら無理矢理さらってく」
「……エース、さん…」
「好きだ!」

突然の告白に目をぱちくりさせる彼女は暫く黙り、そして。

「…私もです」

ぽつりと呟いた。

エースは嬉しくて嬉しくてたまらないと言わんばかりの笑顔で彼女を抱きしめ、彼女も苦笑から笑顔に変わるとエースの背中へ腕を回す。笑いあう二人の笑顔は太陽のように明るく、自然と口付けを交わした。






(すぺしゃるさんくす、つかさん)

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