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週の初め、長い授業が終わり帰宅時間。香と湾には内緒で調理室に直行している私の右手にはエプロンの入った袋。今日は前からフランシス先生とエリザ先生と約束していたお菓子作りの日である。
「失礼しまーす」
「あ、凛ちょうど良かった、台にかけてあるふきん持ってきてくれるかしら?」
「うっす!ぬらしますか?」
「ええ、ごめんなさいね今手が離せないのよ、」
そう笑顔で言うエリザ先生は成人男性でもきっと持てないであろう大きなオーブンを動かしていた。あの悩ましいボディのどこからこんな力が出るんだろ、乳か、やっぱり力の源は乳なのか!?
「…凛ちゃんそんな顔してふきん握りしめてどうしたの、」
「はっ、私としたことが般若のような形相を…?!」
「いやそこまで言ってないんだけど…」
ホームルームが終わってそのまま来たのか出席簿とペンケースを隅の方へ置いてジャケットをハンガーに掛けたフランシス先生はふわふわの髪を後ろで一つに束ねた。ううん何しても絵になるなあ、と凝視しながら私もエプロンをつける、もちろんエリザ先生にふきんを渡してからね。
「エリザ先生ムキムキ…」
「はは、そうだね。じゃあこっちは材料の下準備でもしとく?」
「はっ!わかりました隊長!!」
「え…あ、うん、じゃあ小麦粉はかってくれるかな凛隊員。」
「ふふふ、そうやってノってくれる先生が好きです、」
にへらと笑う私に優しい眼差しを向けて微笑む先生。ああ本当に絵になるなあ今この瞬間をミケランジェロに描いてもらいたいタイトルはもちろん「美しすぎる先生と生徒」で決まりだ。
「あり…!」
「あ、先生終わったんすか?」
「考えてなかっただなんて私ったら今まで何て勿体ないことをしていたの?!ありよ、ありじゃない!ごちそうさま!」
「蟻?いや先生蟻は材料じゃないっすよー」
「う、ん。凛ちゃん彼女は気にせずに砂糖はかってね」
指を組んで目をきらきらと輝かせてよくわからない事を淡々と語り始めるエリザ先生をフランシス先生が止めに入る、いやあこの二人絵になるなあ美男美女ってまさに二人のことだねってさっきから絵になるなあしか言ってない気がする…。
「ってうわあこれナトリウムだ?!」
「ええええ?!さっき砂糖渡したのに!?」
「料理下手の以前に何か問題があるわね凛…そこも可愛いけどね、生クリームぶっかけて食べちゃいたい。」
「あ、先生現実世界におかえりなさい。」
「…エリザちゃん、真顔で言わないで。」
下準備も終わってようやくお菓子作り。今日は私の要望で定番のマドレーヌを作るのだ、のだのだ。上手く出来るかなーとぶつくさ言いながらボールにふやけたバターを入れる私に混ぜて焼くだけだから大丈夫よ、とフォローかよくわからない言葉をエリザ先生に言われた。ちょっぴり複雑だね!
「それにしても急だったからびっくりしちゃった、誰かに上げるの?」
「はい、前のクラスマッチで色々迷惑かけたんでお礼をばっ!」
「凛ちゃん倒れたんだよね、駄目だよ無理したら!…って今更か。」
「…ということはこのマドレーヌ、ギルベルトバイルシュミットの手に渡るのかしら」
「フルネーム?!…ってちょ、エリザちゃんその雑巾で何するの?!」
「入れるのよ」
「怖っ?!先生顔が怖いっす、あと雑巾は噛みきれません!」
「凛ちゃんツッコミ所間違えてる!」
もう「上手く作れるかな…」なんて乙女なことは言ってられない。これからはどうやってエリザ先生からマドレーヌを守って焼けるかが問題だ。
「凛ちゃんエリザちゃん抑えてて!オーブンに入れてくるから!」
「っす!先生落ち着いてください確かにギルは先生にとっては忌まわしい存在かもしれませんが好い人なんです!前も食堂でっ…あああああ!あいつ私を置いて逃げやがったあああ!!」
「ちょ、凛ちゃんエリザちゃんこっち来ないでえええええ?!」
おいかけっこの末、勝利したのはフランシス先生でマドレーヌは失敗することなく無事に完成した、さあてこれからギルのマドレーヌに雑巾の絞り汁をかけて…
「凛ちゃんやめたげて?!」
(クラスマッチで一番お世話になったのギルちゃんでしょ?!)
(う…)
(一番感謝しなきゃいけない相手に腹痛起こさせたいの?!!)
(め…めんごっ!)
(なら早く後片付けする!)
▽▽
ぐだぐだ月曜日。ミスはスルーでお願いいたします。
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