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再び目を覚ました時にはギルの姿はなく私一人であった。あれからどれくらい寝たんだろうと体を芋虫みたいにもぞもぞ動かしてはカーテンを乱雑に開けて時計を確認、ああなんだ8時半か。




「…ってうえええええ8時半だとおおおおおお?!」



いや、…ね?周りからみたら一人で叫んじゃってどしたの?何なの?どうするの?一人寂しいの?放置プレイなの?私ドMなの?それよりお腹鳴ってるの?バッタでも食べるの?マヨネーズで食べるの?ほんとに君はそれでいいの?!…ってなるけどさ、叫ばずにはいられない時間だよね!




「…」



「…え、まさかのツッコミなしっすか放置プレイっすか。」



「…」


「え、ほんとに私一人的な?」


「…」



いくらボケたってツッコミがいなきゃ成り立たないんだよちくしょうめが!と布団を蹴ってベッドから降りた後、ぐちゃっとなった布団を数秒眺めては私の精一杯の綺麗な布団の畳み方をする。一般的に言うと「ちょっときたない」レベルだ、ここテストに出るぞ、よほほほほ!



「…」


「…わーんツッコミ不在怖いよ!!だから別に夜の学校がこここ怖いわけじゃなななな」
「キャンキャンうっせえな」
「しゃなななななななな?!!」


保健室の電気はつけっぱなしのまま、ひたすら一人楽しいハイパーマシンガントークを繰り広げて勢いよくドアを右にスパーン!と開けば、ぎゃあああああ眉毛お化けでたあああ?!




「っづうっ?!」


「わりいなあ、手、長すぎてぶつかった。」


「ぐうううつむじいいい…!」

「うずくまってないで早く出ろ、出ないと…朝まで閉じ込める」「っせい!」



入り口付近でうずくまっていた私はまるで稲刈り後に落ちていた米粒を狙うネズミのごとく廊下へ飛び込んだ。うん自分でも例えの意味がよくわからないんだぜ!まあ予想通りアゴ強打で涙が出そうだちくしょう床…!



「阿呆かお前」


「天才は…変人なんです」


「…」


「うわあそんな蔑んだ目で見ないでください心に刺さります!」


「…いいから早く出るぞ」


「えいやっさー」



保健室の電気を消して長い廊下を歩いて階段を上がってようやく玄関まで帰ってきた。あれだけ明るかったのにもう真っ暗でお月さんが今からは俺の出番だと言わんばかりに光っている。ぶっちゃけ太陽の方が好きだったりする、だってカリエド先生みたいだかんね!



「…思えば月ってアーサー先生みたいっすよね。」


「何だいきなり」


「いやあだって、綺麗に見せかけて裏がある…というか、エロティック。」


「凛みたいなお子さまには刺激が強すぎる存在だな」


「はっはーん、私だってもう大人ですよ!」


「黙れよくそ餓鬼」



胸をはって得意気にそう言えば、短い息づかいで笑いながら私を餓鬼だというアーサー先生。ベタな事言っちゃって恥っずかしー!と言われてしまうかもしれないけども、月の微かな光に照らされたその顔はすごくすごく美しく見えた。今日、始めての笑った顔だ。



(お前が大人なら幼稚園児も大人になるだろ馬鹿)
(失礼ですよそれええええ?!)


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