明日へ先に行けそうかもね




ズガンズガンと耳に悪い銃声音が立て続けに頭に響く、と同時にガシャンガシャンと人工物がセメントとぶつかる音が聞こえる。また助けられてしまった。



黄緑色の彼女、シノという名前だっただろうか。年齢は不明だが女性があんな重たそうなマシンガンを手軽に扱えるのか、もしかして細く髪が長い男かと現実逃避まがいな思いを頭の中でぐるぐると巡らせる。




「に比べて、俺は…」




「そこの、少年っ!」



「?!」



「君さ、来るの、来ないの、?どっち」



「…は、」



この場合の来る来ないの意味合いはどういうものなのか。そしてこの状況で話をふっかけてくるとは彼女はどういう神経をしているのだろう。頭の中の俺はこんなに冷静なのに心臓の方の俺は何でこんなに焦っているのか、わからない、わかりたくもないけれど。




「…お、俺は」



「何?まだグズってんの?」



「っ?!俺は、!」



「言いたいコトがあるならはっきり言えばいいのに、いちいち何に怯えてるワケ、?」



遠くにいるはずの彼女の独特な声が俺の耳元で反復する。別に、怯えてなんかいないさ、い、言いたい事全てを言ったらこの人生上手くやっ、やっていけるわけないじゃないか。何で、どうして。何で頭の中の俺までこんなに動揺している、わからない、わからない、わからないのが、怖い。



(…怖い?)



「もう吐き出しな。君を見てると、イライラするんだ」



(今まで避けていた単語、「怖い」…そうだ、俺は嫌い嫌いと言い続けていたけど)



「…ああそうかいそうカイ、君にはガッカリ…」


「…んだ、」



「?」



もう全て撃ち落としたらしく、いつの間にか地面で寝転がっている俺の目の前に心底呆れたような顔をした彼女が立っていた。周りをみればもう黒い塊はなく、次々と一般市民がせわしなく歩いている。



こんな事が起こって建物も無惨な状態になっているのにも関わらず、道行く人々は「何事もなかった」かのような顔ぶりでいるのだ。血を流して倒れている俺に、マシンガンに奇抜な格好の彼女、明らかに可笑しいのにまるで俺達がここに存在していないかのような顔をして通りすぎていく、…きっとそれが怖いんだ。自分がいくら頑張ったって成功しなければ誰の眼中にも入らない、俺という存在が消去されるこの国が、人が。




「怖い…怖いんだ、この国も、人も。立場の優劣つけちゃってさ、他人と自分を比較して蔑むんだ。だから俺は避けてきた、そういうのしてる奴等を見下して。だけどそう考えながらも俺も同じことしてるんだ。…じゃないと居場所が消える気がして、怖い、そうなるくらいなら死にたいよ、だけど死ぬのも怖いんだ。もうどうすればいいかわからないのにこんな事まで起こっちゃってさ、わけわかんないよ…」



「…」



「でも、生きていたいんだ、何があったとしても死ぬ事が…一番、怖い」



こんな誰にも話したことのない、自分に対しても気づかせようとしなかった事をついに喋ってしまった。こんな俺を君は相変わらずの呆れた表情で弱いだとか情けないだとか言うのだろうか。



先ほどまで鉛のように重たかったはずの体を起こして恐る恐る彼女を見上げるとゴーグルを外して満足そうに笑っている彼女が見えた。




「ふうん…」



「…」



「ねえ、言ってみてどう感じた?」



「言ってみて…」



「色々荷物、降りたんじゃない?」




にやにやと口元を緩ませて地面に座りこんでいる俺に手を伸ばす彼女の手をしっかりととって「そうだね、」と少し笑って起き上がる、いつもより視界が広くなっているような気がした。




(ん、じゃあ行こう)
(…あそこ、かい?)
(そ、多分、隊長も気に入ると思うんだ)
(何をだい?)
(…君を。)


▽▽


わああああぐだぐだわああああ


0804