歪んだ視界に映る




俺は馬鹿な奴だと思う。自分の命をふってまで人助けなんて本当に馬鹿な奴だ、俺は。きっとこの間の事が影響してしまったのだろう、彼女が俺を助けてくれたみたいに俺も人を助けようとしたのかもしれない。




俺は彼女みたいに左右上下、前後に素早く動き回れるバイクもなければ奴らを破壊する銃もない。あるのはポケットに入っているコーラ味のキャンディと現状と未来に怯えて縮みあがっている左胸の奥の臓器だけ。




(どうする、どうすれば生きていられる、?!)



しゃがみこむ俺の横には泣きわめく小さい子供。ああ、今必死に考えてるんだ、うるさいうるさい邪魔をしないでくれ。



(考えろ、考えろ!)



あの黒い機械はおよそ20機、報道でk/6で紛争が起こるときっちりわかっているのはあの機械がそう指令されているからで、本来の目的はお互いの敵を破壊する事であって俺達は目的ではない。だけど前に俺を襲ってきたということは、あの機械は仲間を認識する機能しかないことがわかる。



近くにいるのは幸か不幸か2機、右2メートル先にはなぎ倒された標識が半分に分裂している。k/6から出られるまでおよそ60メートル、この子供が走ってここから抜けるまでにかかる時間は約20秒。…一か八か、だな。




「…今から後ろに向かって走るんだ、絶対に振り向いたらいけないよ」



「うっ、お、おにいちゃ、は、」




俺のパーカーの裾を掴んでいる子供に大声で「いいから行くんだ!」と叫んでちょうど良い長さになっている標識を持ち上げる、さすがに重量があるが筋力も体力も平均よりずっと上だけあって大丈夫そうだ。…ここまでは。




「っ、このっ!」



腕のパーツを振り上げて襲いかかってきた機械の頭部に折れた標識を上から振り下ろせば、バチバチと小さな火花をたてて動きを止めて地面に転がった。案外脆いのか、と油断した瞬間、左から強い衝動。横腹に直に入った衝動は俺の気管を潰したらしい、咳と共に赤いしぶきがとぶのが一瞬だけ見えた。



「かっ…」



もう1機いることを忘れていた。ざらつく地面の上で痛む腹部を押さえて声にならない声をあげながら悶える。そんなことしている間に機械は歩くようなペースでこちらに近づいてきた、飛ばされた時に頭を強打したからか目の前が歪んで見えて気持ち悪い。



何で俺がこんな所で、こんな状況で死ななきゃいけないんだ、俺にはまだする事がたくさんあるのに、いやだ、いやだ死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない、!



「死に、たくな…い…、…生き、たいっ、!」



口から流れる生ぬるい液体が気持ち悪い。すぐそこに見える黒が怖い。何もできない自分が、憎い。



「こん、な自分が…嫌、いだ…」




「…ねえ、」



「?!」



最後になるであろう俺の一人言に予想外の返答に驚いて歪む視界に声の主を入れる。黄緑、ああ、彼女か。また助けられてしまうのか何て情けない。無様。



「自分のこと、嫌いなワケ?」



「は…?」



「自分変えたいなら、這いつくばってでもついてきなよ」



ピントのずれていたシルエットがはっきりと目を通して脳に伝えられる。彼女は、笑っていた。




▽▽


折れた標識→肩から手くらいまでの長さ。


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