最高速度自転車
M/6は一週間と変わらず荒れていた。見た目も、空気も。細々しく怪しい目をした男や原形のない鉄の塊や地面にこびりついたクソなんかは見るに耐えない。
「少年、」
「うう…な、何だい?」
「…酔った?」
「いや…違うんだ。気にしないでくれ。」
「そ。」
もうすぐ着くから。というのは彼女なりの気遣いだろう。こういった状況に慣れていない普通の人間ならこの環境にはショックが大きい、少なからず俺は空気に酔ってしまう。
「シノ!」
「っ?!」
「あ、エリー。」
180キロくらいで飛ばしているバイクの隣りに突然あらわれたのは自転車。…自転車?
「あら、その男の子が前に言っていた…?」
「そ、」
180キロ出す自転車なんかあってたまるかとヘルメットをかぶっている彼女を見ていると彼女もへえ、そお…とヘルメット越しに俺をまじまじと見た。
「…あ、あの、」
「エリー、自重。」
「あらごめんなさい、」
▽
暗い廃墟のような所へとやってきた。バイクの隣りに自転車。ゴーグルをつけてフードをかぶったままの彼女にヘルメットをかぶったままのエリーと呼ばれていた女性。あんな速度で走っている自転車はどんな仕組みなのか見たかったのだが、見た目怪しい120%の二人の後ろを歩いた。
「今日はどうだったの?」
「楽勝」
「ふふ、シノらしいわね」
「あいつらのはまだまだツメが甘い。急所が丸わかりで、」
「これから改良してくるんでしょうね…まったく面倒ね。」
「…少年、」
「っ?!何だい?」
驚いてどもってしまった。二人で話している途中だから声をかけられるとは思っていなかったし、こちらを振り向かずに突然声がかかるし、もう目の前、だし。
「確認だけどついて来るってどういう意味か、…わかってる?」
「…」
足が止まった、お互いに。目の前の扉が開けば俺はきっととんでもない世界の中へ足を踏み入れることになるんだろう。今までの俺が俺ではなくなる、その覚悟があるか、否か。
「…俺は、」
「…」
「俺は、俺を壊したい」
「…そ、っか。」
きっと嫌だったんだ。周りが、勉強が、じゃなくて俺自身が。もう、振り返らない、決めたんだ。…だけど一つだけ気になる事があった。彼女の返答がやけに寂しそうであったこと。
(…気のせいか?)
嫌な音をたてて扉が開いてまぶしい光に目がくらむ。中へ入るとそこには前に見た金髪がいた。ゴーグルを外してフードをかぶったままの彼女にヘルメットを外したエリーと呼ばれていた女性。その後ろで俺は首だけお辞儀をした。
▽▽
今さらですがこれ主人公fさん…じゃないか?
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