居残りしましょうか?




アスタロトの眷属がどうたらこうたらな悪魔学とかサーモンの鍵とラジカセの書が出るグリモア学とかうんざりする単語の連続な悪魔薬学…塾へ入って約1週間、未知な勉強に慣れるはずもなく塾が終わった後、教室に残ってひたすら唸るばかり。



「…ソロモンの鍵、ラジエルの書、です」



「あれえ…」



「はあ…いまりさんは相当な頭の持ち主で…」



「哀れんだ目で見ないでください、わ、私はほらっ、」




実技派ですから!とくるくる回していたシャーペンを奥村先生に向けてにっと歯を出して笑う。するとさらに哀れんだ目で私を見る先生はいまりさんと兄さんがかぶる…とか何とかぶつぶつ言いはじめた。



「かといってあんな点数を取られたらため息がでます、あと手が出そうで…」



「拳を震わせないで欲しいです殴る気っすか!…それに入ってまだあんまり時間たってないしそんないきなり小テストだなんて…ねえ」



「…ですが2点はないです」



「…デスヨネー」



ははははは、と乾いた笑みを漏らして文字がずらーっと書かれているテキストを遠い目で見つめる。こんなの難しすぎるやーい、なのに小テストであんなに良い点数取るなんて勝呂くん見た目で判断したらいけないのか…!



「…せんせー、」



「…駄目です。」
「まだ何も言ってませんけどー?!」



「どうせ帰ってご飯にしましょうとか言うのでしょう、…この問題が解けない限りいまりさんの夕食はちりめんじゃこ確定です。」



「せめてイワシでええって違ーう!そうでなくて杜山さんについて…」



「…いじめたんですか」
「先生は私を何だと思ってるんすかあああっ」



「え…中年期のおじ…」「言わないでおきましょう言ったら泣きます。」


私の言葉から数秒間沈黙が続いたかと思えば奥村先生のおじさんの連呼が始まった。いやああああ現実を叩きつけないでええええと両手で頭を押さえてわめけば、彼はものすごく面白そうな笑みを浮かべてくつくつと喉を鳴らして言う。




「おや、鳴かないんですか?」



「こんのっ…!」



「うあっ?!」



「「?!」」



にやにやと笑う彼の前に立ち上がり、ピクピクと目の下をひきつらせて胸ぐらを掴んだ瞬間、がちゃりと教室の扉が開いて女の子の叫び声。




「ゆ、ゆ、ゆ、雪ちゃ…」



「えっ、あっ、これは違うんすよ?!ただ先生の頬につぶれたトンボの顔がついてるからあは、あはあは!」



「しえみさん…助けてください、僕いまりさんに脅されて…」



「ええええええ?!」



「くおらああああ奥村雪男おおおお?!!」



「…というのは冗談です。今彼女の勉強に付き合っていたんですが何せ彼女は兄さんに似て…」



「あ、そうなんだ、私てっきり…」



ぼぼっと顔を赤らめていた杜山さんは両手を頬に添えて納得していた。…ん、兄さんと似てってどういう事だろう。



「それよりどうしたんですか?」



「あ、文房具を忘れて帰っちゃったから取りにきたの、」



カタカタと下駄を鳴らして和風で可愛らしい筆箱を手にとった杜山さんはそのままドアまで走って半回転。



「じゃ、じゃあ頑張ってね雪ちゃん、っ、あ、ああ、えっと…っいまりちゃん!」




私の名前を呼ぶのが恥ずかしかったらしく、じゃあまたああと耳まで真っ赤にして走っていく彼女を見て私は、私は…!




「鼻血が止まらない。ノンストップ、レッド水」


「気持ち悪いです。」




Q 居残りしましょうか?


(…もしかしてしえみさんの話は…)
(はい、お友達になりたいんす!)
(勝手になってろ、そんな事で手が止まってるんですかちりめんではなく胡麻にしますよ)
(小さいいいいいい?!)


0810