凍りついた鼓膜




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「竜ちゃーん、だってえ」



「…、」



片手で口を覆い必死に笑いをこらえている私の視線の先には、眉間に皺を刻みこんで目の下をひくひくとひきつらせている同じ塾生の勝呂竜士。




「いやあ、まさかあんな可愛らしい幼なじみがいっ、いるなんて、りゅ、竜ちゃ…ぶははははは!」



「うっさいわ!」



ついに吹き出してしまった私はお腹を抱え、ひいひいと何とも女の子らしくない声を上げて笑う。やばい涙出そう、と途切れ途切れに言う私に、彼は顔を真っ赤にして何か言いたそうに口をモゴモゴさせるが、一向に声を発しようとはしなかった。




「ううん、竜ちゃんも大人になったもんだなあ、れ、蓮華の花で…ぶははははは!」



「りゅ…竜ちゃん呼ぶなや、」



そう呟き、下唇を噛んでぷるぷると震えはじめる彼がすごく可愛く見える、こんなに可愛い男だっただろうか、よく鳴く鶏かと思っていたけれど耳の垂れたもふもふした犬に見えてきた。




「まあまあそんなに照れなさんな」



「照れとらん、怒っとんや阿呆!…あんなあ、」



「ああ…そうだよね、俺の女の話を他の女にされたくないものね…ごめんなさい竜ちゃ…ぶ、」



少し儚げに言ってみたけれどやはり笑ってしまう。するとぷつん、と何かが切れた音がした、その音は確かに目の前から聞こえてきて目の前にいるのは確かに勝呂くんで。ああ、やり過ぎたかなと下から顔を覗きこんで反省の色を見せるがすごい威圧感に押されそうになる。



「ご、ごめん…からかいすぎた…?」



「…ええさかい、話聞きや。」



「え、あ、はい。」



「言うておくけどなあ、あいつはただの幼なじみでそないプロポーズ確かにしたわ、したけどな子供の頃の話や、んなもん誰でもしとるもんやろ!今は別に何とも思うてへんし何もしようとは思ってへん。…ただなまえにこの事を知られるんがかなんかっただけや、なまえに嘘でもこの事話されとおなかったわ!」



途中途中私が落ち着いてとかわかったから、と口を挟もうとするが、彼はノンストップで言い散らかした。最後の強い拒絶を言いはなった後、はあ、はあと酸素を吸い込んで落ち着こうとしている、威圧感放ちっぱなしで。



「え、ええと…?」



「…頭の緩ーい鈍感代表なお前にもわかりやすく言うたるわ、」



「な、」



「普通、好きな女に他の女と俺の恋話聞かされたら怒るやろ、馬鹿かお前はそんぐらい悟れや!」



馬鹿で鈍感代表らしい私に爆弾発言をかました彼はそのままどこかへ走っていってしまった。そんな彼を追いかけようとも声を出そうともしない私は、ただただ耳に張りついた彼の声によってその場から動けずにいた。



凍りついた鼓膜



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