今度は貴方と出会えたら
(海賊連載のはしくれ)
どれくらい泣いただろうか。床に水滴がたまっているくらいだからきっと酷い顔してるんだろうな、はは、あれから随分時間がたったしもう町からすごい距離があいたかな。もう、戻ってこれないのかな、
「…助けて」
「失礼します。」
「っ?!!」
ぽつり、と呟くとあの扉が静かに開いて驚く。またさっきの忌々しい異国の奴かと体をこうばらせたが丁寧な口調だから違うのか、と少し安心した。思った通り入ってきたのは異国の奴ではなく、私と同じ黒髪の男であった。
「気づくのが遅くなってしまい申し訳ありませんでした…」
「に、ほんじん…?!」
「え?あ、はい。貴女と同じ日本人です。」
優しく笑う彼に少しだけ心が温かくなった気がした、…でもあいつの仲間ってことは私の町を崩壊させた一人でもあるって事で…
「あの、少し動かないでくださいね」
「え?」
「ロープを切るので動いたらナイフ、刺さっちゃいますし。」
「はあ、」
この人の事も憎いはずなのに全然そんな気が起こらなかった。色々と頭の中で思いを巡らせている間に手足を縛っていたロープは切られており自由に動かせるようになっていた。
「すみません、こんな事になってしまいまして…」
「…」
「こんな形でなまえさんと再開することになるとは…誠に残念です。」
「…え?会ったこと、ありましたっけ…?」
座り直してそう言えば、目の前で正座をしている彼はきょとんとして、悲しそうに目を伏せた。
「覚えて…いらっしゃいませんか…、そうですよね。随分昔の話ですし、」
「な、何かすみません…」
「いえ、いいんです。…またいつか思い出して下さったら。」
にっこりと笑ってはいるもののやはりどこか悲しそうで何だか申し訳なくなった。昔知り合いだったってことは、この人も私と同じ町出身だったのかな、
「あ、紹介が遅れました。私本田菊と申します。」
「…き、く?」
「?はい、」
「んー…いや、何でもないです。」
「ふふ、敬語でなくても構いませんよ、昔みたいに。」
「(昔と言われても…)なら、菊も敬語じゃなくてもいいよ」
「いえ、これが仕様ですので。」
「…ははっ、変わってるね、」
「…ふふ、ようやくなまえさんの笑ったお顔を見ることができましたね、」
「あっ、」
「ずっと泣いてらしたんでしょう?」
私が俯いて黙ると、視界にタオルがはいってきた。何事かと顔をあげると優しく笑う菊が口を開く
「ひんやりしてて気持ち良いですよ?目を冷やしてください」
「あ、ありがとう…」
「いいえ。」
タオルを受け取り目にあてると、彼が言ったとおりひんやりとしていて気持ちが良い。少しずつ目の痛みが和らいできたころ、突然大きな音とともに船が大きく揺れた。
「っ?!」
「…きましたか。」
「な、何が…?」
「…いえ、なまえさんはお気になさらないで下さい。」
「でも、」
「ちょっと…いってきますね。なまえさんは絶対にこの部屋から出ないでくださいね」
「えっ、菊っ、!?」
壮大な雑音とともに彼は消えていった、
今度は君と出会えたら。
(私を知っている貴女と。)
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