君は変わらない笑顔で、
私は春が嫌いだ。
出会いや別れの度に周りに気を使い心を乱しては塞ぎこんで暗い暗い感情が渦を描くようにぐるぐるとループしてゆくから。ふっくらとしたつぼみが開いて暖色の花びら達が太陽の光を浴びて生き生きと咲き誇っているのと自分を比べてみるとどうしようもない感情に襲われる、ああまた変わってしまうのだと。
「あーあ…」
ふとため息、つかずにはいられなかった。そういう年頃なのよと母は微笑ましげに目尻にしわを作って微笑んでいたことを思い出してまたため息をついてしまった。自分にしかわからない気持ちだってあるんだと言い返すのさえ億劫である。
昨日も今日も手にあごを置いて空を見上げる。今日も雲が動いて広い空をゆっくりと変えていった。
「…まーたため息ついているのかい?」
「…アル」
「ため息ついたら幸せが逃げちゃうんだぞ」
だから笑うんだとニコニコと笑う彼、アルフレッドから視線を外して再度空を見上げる、ああさっきの雲がもうあんなところに移動してる。
「んー、君は毎年この時期になるとうだうだしてるよね」
「アルにはわかんないよ、絶対。」
「何がかい?」
「何がって…私の気持ちだよ。」
「私の気持ちって?」
「…だからそのままの意味だってば」
「そのままの意味って何だい」
「っもういい!ほっといてよ」
度重なる質問にイライラして表情を悟られないように腕の中に突っ伏する。何でこんなにカリカリしているのかわからない。…全然わかんない。
「ねえ、俺が昨日どう思ってたかわかるかい?」
「…知らない」
「昨日は菊達とゲームしたりたくさん話したりしてすっごく楽しかったんだ。」
「…」
「ね、これでわかっただろう?」
「…」
ついに黙ってしまった。彼が何を言いたいのかまったく理解できないと同時に意味もなく泣きそうになったからだと思う。そんな私に彼はさらに続けて話し始めるのだ。
「言わないとわからないこともあるんだ」
「…」
「俺が昨日どう思ってたかなんて聞かないとわかるはずないと思っただろう?」
「…」
「だからアルにはわかんないよって言われても困るよ、」
「…」
「言ってくれなきゃわからないよ。」
「…っ」
すごく重たく感じた頭をあげて彼の方を向いては下唇をぎゅっと噛む。そうしてないと感情が一気に溢れてしまいそうだったから。そして彼もおそらく私と同じ顔をしている、下がった眉に今にも泣いてしまいそうな瞳に眉間にうっすらとしわ。先ほどまでの笑顔な彼はそこには居なかったのだ。
「辛いよ、君の考え悩んでることが理解できない」
「…」
「…君を抱きしめて大丈夫だよって言ってあげたいのにできないんだ、」
「…わ、たしっ」
ついに言ってしまった。ぷつん、と心のリミッターが外れた後は止めようがないくらいに次から次へと吐き出してゆく。自分でも何を言っているのかわからないのに彼はちゃんと聞いてくれていた、私の思いを。
「…怖、いすごく怖い」
「…」
「変わっていくことが怖い、の…じ、自分だけっ取り残さ、れてるような気がし、て…嫌、」
息が途切れて上手く話せない。何度も喉をひくつかせてぼろぼろと涙を溢している私を目の前の彼は優しく抱きしめた。「大丈夫だよ」とは言わず突然空について話し出した彼に多少驚きつつも暖かい体温に包まれながら耳を傾ける。
「君は空を見て何て思った?」
「?…そ、空も変わってい、くって…」
「ぶっぶー、ハズレだぞっ」
「?」
「確かに視覚的には変わってるように見えるけどさ、変わってるのは雲で空は何一つ変わってないんだぞ」
「…」
「そりゃあ時間が経てば周りが変わっていくのは当たり前さ、雲みたいにね。」
泣きじゃくる赤子をあやすように優しく背中を撫でられる、何でだろうすごく落ち着く。
「だけど変わらないものもあるだろう?もっと大事な、本質的なものは何一つ変わってはいないだろう?」
「…本質的な、」
「…俺も変わってしまったかもしれない、だけど昔っから変わらないことだってあるさ。」
ははは、と笑いながら私を離して少し距離をとった彼は私の目を見つめてこう言ったのだ、「昔から相も変わらず君が好きなんだ」って。昔の幼さが残る顔と今とでは変わってしまった彼だけれど、昔と同じ、変わらない笑顔で。
私は春が好きだ。
人と出会い、別れていくけれどずっとずっと変わらない事があるから。また同じ笑顔で笑いあえるから。
きみは変わらない笑顔で
(空いた距離を一気に埋めてゆく。)
**
title:確かに恋だったさま
50万ありがとうございました(´;ω;`)!40万企画が詰まっているのでお礼小説をば…!めでたい事に似合わないお話しかもfさんですがお持ち帰りOKです、こんなのでよろしければ…!その際は鈴木さんとこの足踏みリーアからだよーと記載してくださればありがたいです。
とにもかくにも50万打ありがとうございました!
0526 鈴木のん