「じゃあそろそろ休憩にしようか」
その掛け声は、気持ちと比例するようにフィディオの口から、嬉しそうに滑り出た。
確か、今日はこれからまた練習をした後にルシェに逢いに行くって言ってたっけ。
そりゃあルシェ大好きのフィディオだからな、浮かれるわ。
呑気に鼻の下を伸ばしているフィディオを観察していると、頬に冷たい物が当たる。
「うわあッ」
「マルコー、何ぼーっとしてるの?」
「つ、冷てえな」
どうやらボトルを頬に当てられたようだ。
「びっくりしたじゃねえか!」と側にいたアンジェロに言う。
「ボ、ボクじゃないよ!
ジャンルカだって」
まるで自分は関係ないとでも言うかのように、すました顔で立っていたジャンルカを指差すアンジェロを信じ、俺は懇親の力でデコピンを放つ。
練習後なのに、こんなに力、残ってたのか。
自分でそう関心していると、ジャンルカは額を押さえながらまたボトルで今度は俺の頭をごつく。
「ったく、さっきからなんだよ」
「早くドリンク貰ってこい」
びしいっとジャンルカの人差し指が指すのは、ベンチの側でタオルやドリンクを持ち忙しそうに動き回るマネージャー。
自分で、顔が赤くなっていくのが分かった。
「あ? ………も、貰ってきてくれよ」
「はっ 自分で行ってこい」
「え、いや、その…恥ずかしすぎてしぬって」
「じゃあしね」
「ひでえ」
俺、マルコ・マセラッティは誰もが呆れるほどの、片思いの真っ最中。
イタリア男に生まれたからには、女に生きろと聞いたことがあるけど。
俺はジャンルカやフィディオと違って、一筋なわけで。
まあ、それでも声すらかけれないんだけど。
「声をかけない方が女の子に対して失礼だぞ
お前はイタリア男の恥だ」
「お前には言われたくねえよ女たらし」
ドリンク受け取るだけだ、それくらい出来るだろ
そう、ジャンルカに軽くあしらわれ、マネージャーがいるベンチの方へと突き飛ばされながらも歩きだす。
はずだった。
あれ、おかしいな。
足が、前に出ないぞ。
「おいマルコ、新しいダンスか?」
「ち、ちげーよブラージ!」
前に進もうと体全体を動かすものの、膝から下が動かない。
そんなおかしな動きを繰り返していると、ブラージはからかい気味に、ぱしんと俺の背中を叩く。
くそう、なんでだよ。
「え、怪我とか?」
「え、大丈夫ですか…?!」
いつのまにか側に立っていたマネージャーに、「うわあ」と情けない声を出してしまった俺は、恥ずかしさのあまりに火照った顔を覆う。
なんたる失態…!
これじゃあ俺がヘタレみたいじゃないか!
「大丈夫ですか、マルコくんッ」
「え、あの、…えーっと」
「捻りました?あ、折れちゃったとか?」
「え、あのー…」
「大変です!痛いですよね
と、とりあえず…その、」
「あの、マネージャー、大丈夫だから」
「無理しちゃダメですよ!」
話が通じない。
けど、俺のために心配してくれてると思うと、ますます顔が…あつい。
「マネージャー、マルコは怪我じゃなくて病気だよ」
「え、そうなんですかッ?」
恋
の
ね
、 `
うるせえ、ジャンルカ!
頑張れヘタレパーマ
やっぱりお前、ひでえ!
~111113