正しい人助けの仕方 | ナノ

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『ぅ、噛んじゃったから全然格好よくなくなっちゃったぁあああ!!!!!』

「だ、大丈夫やでニックネーム!
決めポーズも決まっとったし、めっちゃかっこよかったで!!」



芝居が一段落した後、帽子を被った女子生徒―――ニックネームは、『部活勧誘の芝居だった』と杉原に打ち明けた。

しかし、彼女はセリフを噛んでしまったことを気にしているようで、すっかりいじけてしまっていた。



「それにしてもニックネーム、なんやその格好!!
台本とちゃうやんか!」

『だ、だってスイッチが着たほうがインパクトがあっていいって言うから…』

[こういうこともあろうかと、前々から準備していた
ニックネームの帽子に合わせて、ワインレッドに統一した特注戦闘ドレスだ]

「特注て、どんだけ準備万全やねん!!
それにニックネームもニックネームや!
スイッチのゆうことそう簡単に信じるんやない!」



ミニスカート丈のドレスに、ワンポイントにレースがあしらわれたニーハイソックスの間から覗くのは絶対領域。

それは、何処か男心を擽る何かがあった。

ニックネームが少し童顔なのもあるだろうが、その格好は似合っていてかなり可愛い。

それをいいことに、クラスメイトや他クラスからも生徒が集まって、ニックネームの写真撮影会が行われていた。

もちろん、本人は始終嫌そうな顔をしていた。

だってニックネーム本人は、部員集めの為に仕方がなくやった訳であって、本当は恥ずかしくて堪らないのだ。

まあ、嫌そうな顔をしていても、恥ずかしさで顔が赤くなっていたからだろうか、写真はばっちりツンデレ仕様になっていて、受けがさらに良くなったなんて、ニックネーム本人は知る由もない。



杉原「それで…えっとスケット団でしたっけ?
どんな活動してるんですか?」

『え…杉原くん、もしかしてスケット団に興味持ってくれた、?』

杉原「ここまでしといてその言い草はないでしょう!!!」



嬉しくて仕方がないとでも言わんばかりに笑顔を浮かべたニックネームは、自信満々に語り始めた。

その姿に、杉原が少し顔を赤らめたのは仕方がない。



『説明しよう!
わたしたちの仕事は、生徒が学園生活を円滑に送るための人助け!!
トラブルは迅速に解決!!
部活の助っ人から悩み相談、落とし物の捜索、裏庭の清掃まで依頼人を必ず満足させます!!
みんなに頼られる学園のサポーター集団なの…!!!』

「あんなニックネーム、噛まないように必死なのはかわいいけど、ウソの設定言うなや
周りはみんな言うてるで
スケット団はただの便利屋やて」



金髪の女子生徒は、呆れ顔で言う。

その言葉に、ニックネームはうっと言葉に詰まった。

何も言い返せない、そんな様子のニックネームに、杉原はこの事が事実なのだと悟った。



「もう評判はグッズグズや
実際依頼は来えへんし、毎日ヒマでグッダグダ」



まあ、部長がズルッズルっちゅーか

ちょっと抜けてるとこあるからなー



『え?どういうこと?』

「ああー!!
状況が飲み込めとらんくて戸惑うニックネームもかわいいけどな!」

『ねえヒメコ、ズルッズルって何?!
せめて分かる言葉で言ってよ、何か傷つくから!!!』

[泣かないでなまえちゃん、ほらおばちゃんが飴チャンあげるからね〜]

「アンタ誰やねん!!」



ショートコントのようなやり取りは、楽しそうでもあり、微笑ましくもあり、また恐怖でもあった。

金髪の女子生徒が放つ、圧力―――俗に言う「がん」というヤツを飛ばされ、自分に対してではないと分かってはいるものの、杉原は恐怖を抱かずにはいられなかった。



杉原「え…と、彼女もその…
スケット団の一員なんですか?」

『うん、そうだよ
副部長なの』

「お、そう言えば自己紹介がまだやったな
アタシは……」

[紹介ならオレがしてやろう
詳しいデータが揃っている]

『「んじゃ、スイッチお願い(頼むわ)」』



パソコンを操りながら、前に出てきた男子生徒。

この人も、個性強いなあ。



[鬼塚一愛、ニックネームはヒメコ
かつては“鬼姫”というあだ名があり
今では最強のヤンキーとして伝説になっている]

ヒメコ「お、おい
いらん事まで言わんでええねん」


ヤンキーか、ヤンキーだったのか!

通りで怖い訳だ。

杉原の顔は少々引きつった。

そんな杉原の表情から心情を読み取ったのか、金髪の女子生徒―――ヒメコは、「昔の話だから、今はハムスターみたいにおとなしい」と弁解する。

そ、そうなのかな。

杉原は正直、がんを飛ばしてくるようなハムスターは知らなかった。

いや、知ってる人は世の中には誰もいないだろう。



[7月7日生まれ、かに座、B型
好きな食べ物はペロリポップキャンディたこわさび味]

ヒメコ「いや、もうええて」

[身長162センチ、体重、バスト、ウエスト、ヒップ…(キリッ]

ヒメコ「何で知っとんねん!!!!

どこで調べて来んねん!!!
ほんで何で今ちょっとカッコつけたんや!!」

[体液は強い酸性の性質を…]

ヒメコ「持ってへん!!!」



ヒメコが男子生徒に掴み掛かる。

その様子を、少しニックネームは心配そうに見つめていたが、日常的なことのようで、止めには入らなかった。

それでいいのか…?

杉原が考えているうちにも、ショートコントのようなやり取りは続く。



『それで、こっちのパソコンで話してるのは…』

[スイッチこと笛吹和義]

『何でかは分かんないけど、自分の口じゃ喋りたくないんだって
自作のゴンセーオウセーソフトで喋ってるの』

[音声合成ソフトだ]

『あ、そうそれそれ』



また間違えちゃった、若干涙目になるニックネーム。

それをすかさずケータイのカメラでフォルダに納め、瞬時に宥め作業に移る笛吹―――スイッチとヒメコ。

その時の彼らの動作は流れるように自然で、明らかに日頃の慣れが出ていた。

なんなんだ、この人たち。



『スイッチは個人情報とかあっという間に調べられるの
どうやって調べてるかは知らないけど』

[企業秘密だ]

ヒメコ「…あんま近寄らんほうがええで」

[2月28日生まれ、魚座、AB型
好きな十刃はアールニーロ・アルルエリだ]

ヒメコ「知らんがな!!」

『…メンバー三人だけなんだけど
そんな感じでやってるの』



―――何か困ったことがあったら、いつでも言って来てね



杉原「はい…ご親切にどうも」



へにゃりと頼りなさそうに笑ったニックネームだったが、言葉には、不思議と説得力があった。

杉原は、少し見とれていると、ヒメコとスイッチから強引な勧誘を受けた。

や、やっぱり怖いよこの人たち。



杉原「いえ…でもボク
部活に入る事はあんまり考えてないんです
友達作るのとかも、ちょっと苦手で…」

『え?
わたしたち、もう友達でしょ?』

ヒメコ「せや!」



でも、ちょっと暖かかった。