50000! | ナノ
※不動明王成り代わり・女主





幼少期の家の環境とか、母親の教育方針からなのか、気が付いたらわたしは一人を好む人間になっていた。
弱肉強食の世界に生きるため、少しでも強くならなければいけない。
だから、同学年の人みたいに馴れ合いで人付き合いをするつもりはなかった。
特に女子なんて、誰しも表面的には「友達だよ」なんて言ってるくせに、本心には暗く淀んだものが渦巻いているんだから。
寧ろ、そんな形だけの仲間なんて、利用するだけ利用して、わたしは上に這い上がってきた。
幼いながらに、無駄に大人びていたわたしは、最初こそは周りの大人に囃立てられていたものの、賢すぎるのは困り者なのか、最近では逆に恐れられるものだ。
それが余計に、わたしを一人へと追い込んだのかもしれない。



周りに勝手に貼られたレッテルと、家庭の事情、重なる重荷に耐えきれるほど、わたしはまだ強くない。
弱い自分を認めたくなくて、逃げて逃げて、たどり着いた先で見つけた自分の居場所は、可笑しいほど早く崩れ去ってしまった。
恩師と呼べるのか分からないけど、あの時のわたしには、あの人は神様に見えた。
あの人が居なくなった今、わたしは何故か、かつて敵として戦った相手とともに、戦っていた。
女子なのに少年サッカー世界大会の日本代表なんて、物凄く名誉なことなのに、素直に喜べない自分がいた。
這い上がってでも勝ち取って身につけた実力を認められたことは、嬉しかった。
けれど、今までわたしがやってきたことで傷付けてしまった人が居て、憎まれても仕方がないという事実があるのも現実で、わたしは立場的にはよくないところに放り込まれたのだ。
まるで、今までの罪を償えとでも言うように。



気が付いたら一人で行動していたわたしは、もう一度言うけど今さら馴れ合いなんてするつもりはない。
寧ろやり方すら知らないのだから、やる必要もないだろう。
そう勝手に結論付けて、わたしは今まで通り、一人で行動していた。



「なまえさん!
今から自主練ですか?
わたし、手伝います!」



今まで通り一人で行動していたはずなのに、ある日何故か絡まれていた。
しかも、相手は明らかにわたしのことを良くは思っていないであろうあの鬼道さんの妹だ。
わたしより一つ年下で、雷門中生であることくらいしか知らないけど、わたしに話し掛けるなんて、相当物好きなんだろう。



「……………別にいい」
「そんなこと言わないでくださいよ!
わたし、なまえさんとも仲良くなりたいんです!」
「‥‥わたしはなりたくない」
「もう!なまえさんせっかく可愛い顔してるんですから
笑ってくださいよ!」
「断る」
「ええー!!」



相手は一方的に話しだした。
わたしの意見はスルーのようだ。
正直、こんなタイプの人間は初めてだし、どうすればいいか分からなかった。
それに相手は、頼んでもいないのに、わたしの分のドリンクとタオルを準備してくれた。
しかも手渡し。
毎回とびきりの笑顔を向けてくれた。
それも何か裏にでもあるんじゃないかと疑ってしまうくらい、印象的な笑顔だった。
朝食の支度もあって忙しいはずなのに、ってなんでわたしが心配しなくちゃいけないんだ。
相手が勝手にやったことだろう。
その日、わたしはお礼すら言わなかった。





そして、今現在に至る。
今日もまたわたしは、―――音無春奈に絡まれている。



「休憩の時間ですよなまえさん!
しっかり休んでください!」
「……またお前か」
「お前じゃないですよ!
音無春奈です、は、る、な!」



さりげなく名前呼びを強調してきた音無を無視して、水道のある宿舎側へ歩き始める。
この下り一体何回目だ。
音無はことあるごとに名前呼びを強要してくるのだけど、わたしはそれを拒否し続けている。
理由なんて簡単だ。
心を許したみたいで、なんかカッコ悪い。
背中越しに音無が何か叫んでいるのが聞こえるけど、わたしは無視を決め込んだ。
ふいに、肩に何かが乗った感触があった。
なんだ、また音無か。
だったら本当にアイツは物好きだな。
飽きれて振り返れば、そこに居たのは、音無ではなかった。



「ちゃんと汗吹かないと、風邪引きますよ」
「…………ん、」
「!(受け取ってくれた!秋さんと春奈さんに自慢しなきゃ!)」
「………………なに、人の顔じろじろ見て」
「え?
あ、だってなまえさん、可愛いから…」
「?!
(なに言ってんだこいつ?!)」
「赤くなったなまえさんも可愛いです」
「おいこら、ケータイ構えんな」
「写メらせてください!」
「おい、久遠頭大丈夫か?!」



音無がわたしに一方的に話し掛けるようになってから、マネージャーがよく話し掛けてくるようになった。
頼むからほっといてほしい。



「なまえさんに心配してもらっちゃった……!」
「なんで喜んでんの」



監督の娘だったか、この久遠冬花はかなり変だ。
ちなみに久遠も名前呼びを強要してくる。
なんでそんなに呼ばれ方なんかにこだわるかなあ。



わたしが可愛いって?
なに、目腐ってんじゃないの。
少ししらけた視線を送ると、何故か久遠は喜ぶように笑った。
なんだこいつ、ドMか。



あーあ、なんかしらけた。
やる気失せた。
もういーや、練習は適当に済ませて、夜自主練しよう。



その後わたしに念を押すように声をかけた久遠から受け取ったタオルでおとなしく汗を拭いたけど、わたしが練習に身が入らなかったのは言うまでもない。










**********





夜、空は曇天。
わたしの気分も曇り気味―――――というより、既に最悪だった。
結局、夜に自主練をするも、やる気のなさはそう簡単に回復しないらしく、特に何も出来ないまま、時間だけが過ぎてしまった。
暗い夜空が広がる今日は、織姫と彦星が年に一度だけ会うことが許された日らしいのだけど、正直わたしは七夕の話は好きでは無かった。
だって、元々は二人が仕事をやらずにだらけて、惚気ていたのが原因なのだから、自業自得である。
曇りなんて、ざまあ。
しかし、世間一体はそんなことを思わず、ロマンチックな話だと認識しているようで、イナズマジャパンの宿舎には、誰が持って来たのか―――――当たり前のように笹が鎮座していた。
その麓に設置された机の上には、「皆さんお願い事を書いてください」と女子特有のまるっこい字で書かれた貼り紙と、色とりどりの短冊とペンが置かれていた。
正直わたしは、小さい頃から神頼みなんかに頼る気はなかった。
世の中は実力社会なのだ。
自分の力で、這い上がっていくしかないのだ。



「くっだらねえ……」
「あ、なまえちゃん
短冊にお願い事書いた?」
「は?」



―――――わたしが書くわけないでしょ。



その言葉は、何故か飲み込んでしまった。
なんというか、言ってはいけない雰囲気だったのだ。



風呂上がりのわたしに声をかけてきたマネージャー―――――木野秋は、音無や久遠とは違う、何かを持っていた。
一番マネージャー経験が長いらしくて、仕事に手慣れているのもあると思うのだけど、何処か安心出来るような、包容力を持っているのだ。
それは、父親によって絶望に追い込まれた家庭の中で、わたしを抱き締めた母親の温もりに似ていた。



「あれ、まだ書いてない?
あ、それよりなまえちゃん、髪ちゃんと拭かないと」
「…!
ちょ、なにやって‥‥」
「え?拭いてあげるよ?」
「いいって!」
「よくないよ!
風邪引いちゃうよ」
「……」



強引なところは二人と同じなんだな。
一人考えていると、首から下げていたタオルはいつの間にか木野の手の中に移動していた。
まさか、と思っていると、やっぱり予想通り―――――わたしの頭を拭き出したのだ。



「ちょ、…なにやって‥‥!!」
「なまえちゃん、髪さらさらだね!
やっぱり何か手入れしてるの?」
「……………トリートメント、くらい」
「それ今度教えて?」
「………………気が向いたら、」
「分かった、楽しみにしてる」



女の子らしい、花のような笑顔で笑った木野から、目が離せなくなった。
嗚呼、分かった。
わたしが特に女子と関わりを持たないようにする訳が。



―――――自分にない素直で純粋な可愛さを持っているからだ。



羨ましい?
さあ、どうなんだろう。
今のわたしには、分からない。



「あ、なまえちゃん
願い事まだ書いてないんだったら、わたしになまえちゃんの分ちょうだい?」



どういうことだ。
元々書く気はなかったのだから、素直に頷いて置くと、わたしの頭を拭き終わった木野は、嬉しそうにペンの蓋を開けた。
木野は、キュ、キュ、と音をたてながら、短冊にペンを滑らせていく。
書き上がったらしく、木野は嬉しそうに微笑みながら、彩られた笹の中に短冊を結びつけた。



「二つもお願いするなんて、わたしワガママかな?」
「………ほんと、あんたらお節介だな」





なまえちゃんがみんなの輪に溶け込めますように。










銀河の猫

星の色、大きさが全て違うように、人の考えは違う。
君の正義はわたしの悪夢かもしれない。
でも、わたしは信じてるから。

優しさに戸惑うわたしは、まだ人間なんだろう。
ならば、いつかは光を取り戻せるだろうか。





マネージャー落ちとのことで…管理人初の試み、どうでしたでしょうか?
春奈ちゃんとふゆっぺはきっと、こんなテンションだろうと思いまして、まとめは秋ちゃんに任せました!
と、いうよりも
七夕ネタと、イナGO!の秋ちゃんの素晴らしい名言に肖っただけという……

すみません、なんだかよく分からない出来で(;´∀`)
それにものすごくお待たせしてしまって゜。(p>∧ダメ文ですみません…!

こんなやつですが、これからもNero e biancoと時松杏をよろしくお願いします。


お題:alkalismさまより


11_07_13