50000! | ナノ
※風丸成り代わり・女主





pipipipipipi―‐,―

耳につく独特の電子音が鳴り響くことで、段々と覚醒していく意識。手探りで音源を探し、やっとの思いで見つけだしたそのボタンを押すと、ぴったりと電子音は止んだ。目を開くと、少し開けておいた窓から入ってくる風で、カーテンが揺れていた。


(みんなはもう、練習してるのか…?)


幼馴染である円堂に導かれるように始めたサッカー。今では中学サッカー界の頂点を決める世界大会に日本代表として出場するまでに、のめり込んでしまっている。小さい頃からわたしはいつも、太陽のように温かくて、優しい円堂の後ろを着いて歩いているような子どもだった。一人だと不安、なんていうのも少しはあったかもしれないけど、円堂の隣=わたしという存在を、守り抜きたかったのだと思う。今となっては、サッカーの名門校として名を馳せている雷門中学サッカー部キャプテンで、日本中を騒がせた「宇宙人騒動」を解決に導き、そしてたった今行われている中学サッカー界の頂点を決める世界大会で、日本チームのキャプテンをつとめている円堂。世界的に有名になった円堂は、手の届かない存在になる―――わけではなく、いつも通り、親しくしてくれている。また、そんなところが魅力的で、たくさん人が寄ってくる。わたしも、その魅力に魅せられた一人なのだけど。


(よし、起きるか)


ベッドからそろりと脚を出し、床につける。ベッドメイキングをして、寝間着にしていたTシャツとジャージを脱ぎ、ジャパンのジャージを着こむ。まだ辺りは薄暗いけれど、みんなは練習を始めているんだろう。だから、わたしも負けじと頑張らなければ。気合いを入れるように両頬を叩き、洗面所へ向かった。ひたひたと自分の足音が、廊下に響く。あ、靴下履いてなかった。後で履きに戻らなくては。たどり着いた洗面所の鏡の前で髪を梳かしながら、頭の上に―――ポニーテールを作る。いつしか、わたしのトレードマークとなったこのポニーテールは、それなりの長さがあるから動く度に揺れる。陸上の時とは違って、サッカーでは不規則に動くこれは、わたしとは別の、何かの動物のようにも見えて、それなりに面白い。小さい頃からわたしは言動が少し、女の子に見られないらしい。だからお母さんが―――少しでも女の子らしく見えるようにと望んだから、そのまま伸ばし続けているのだけど。未だに男の子だと思われることがある。なんでだろう。


さあ、少し走り込みでもしてくるか。洗面所から部屋へと戻り、靴下を履いた。それからタオル片手に寄宿舎の階段を降り、玄関で靴紐を結んでいると、ふいに足音が近づいて来た。誰だ、と思いながら振り替えると、ぴくっと茶色い何かが動くのが見えた。



「か、風丸さん!おはようございます!」
「…立向居か、
お前も朝練か?」
「は、はい!
あの、風丸さんは…走り込みですか?」
「ああ、今日はいつもより早く起きれたから、長い距離にしてみようと思って」
「お、俺もご一緒してもいいですか?!」
「ああ、いいけど…」



「俺、結構ペース早いぞ?」と確認すると、「が、頑張ります!」と威勢のいい返事が返ってきたので、わたしは頷きながら立ち上がった。「つらかったら無理せずに、自分のペースで走れよ?」と一応声を掛けておくと、立向居は嬉しそうに返事をした。顔が何処か赤い気がする。風邪とかじゃあ、ないよな?大丈夫なんだろうか。










**********





ジャパンエリア内を軽くランニング程度に走りながら、立向居との話に花を咲かせる。そういえば、二人きりとかで話したこと、なかったよな。なんて考えながら、立向居の話に相槌を打っていると、ふいに立向居が立ち止まった。



「どうした、立向居…
やっぱり、ちょっと速かったか?」
「あ、いえそういうわけじゃなくて、」
「じゃあ、どうしたんだ?」
「えっと、俺…
ずっと風丸さんに、伝えたいことがあって…」
「俺に、?」



下を向いて、何処か恥ずかしそうにしている立向居を見て、わたしよりも乙女みたいだな、なんて考えていると、突然顔をガバッとでも聞こえそうな勢いで上げた立向居に、両手を握られていた。あ、やっぱり手、大きいな。円堂も結構大きかったし、GKは大きいもんなのかな。



「風丸さん!お、俺!ずっと風丸さんのことが好きでした!」
「え?」




「立向居が好きなのは、円堂だろ?」




「え…?
あ、その、もちろん円堂さんのことは好きですけど
それは違う方の好きであって…」



また下を向いて、一人何かぶつぶつと唱え始めた立向居。まあ、嫌いだって言われたわけじゃあないんだし、「ありがとな」と答えると、立向居はまた一段と下を向いてしまった。訳が分からない。どうしたらいいんだろうか。わたしも思わず下を向きそうになっていると、ぼんぽんと肩を叩かれた。



「ん?……ああ、ヒロトに吹雪
やっぱりみんな、早いんだな」
「おはよう風丸くん
今日も一段とかっこいいね」
「あはは、誉めても何も出ないぞヒロト」
「別にそういうつもりじゃないってば
俺の本心だよ」



「残念だったね、立向居くん」
「ふ、吹雪さん…言わないでください」



吹雪が立向居の様子がおかしい理由が分かっているみたいだから、聞こうとしたのだけど。ヒロトに「ここは吹雪くんに任せて、俺と走らない?」と言われたので、断る理由もないから頷くと、ヒロトも玄関で嬉しそうに笑った立向居と同じように、嬉しそうに笑っていた。何かいいことでも、あったんだろうか。




ジャパンエリアを抜けて、海岸線に沿って走っていくと、朝焼けに染まる海と空の幻想的なコントラストが広がっていた。ああ、綺麗だ。今度カメラを音無にでも借りて、一枚写真でも撮っておこうか。



「綺麗だね、風丸くん」
「ああ、やっぱり海はいいよな」
「オレは風丸の髪の方が綺麗だと思うぜ?」
「ちょ、ちょっと綱海くん
それ俺が言おうと思ってたんだけど」
「早いもの勝ちだぜ?」
「? おはよう綱海
誉めても何も出ないからな」
「本気で言ってんだぜ?」
「…ありがとな」



波に乗っていたらしい綱海が、サーフボード片手に歩み寄ってきた。「朝早いんだな」と話し掛けると、綱海曰く「俺の朝は海から始まる」らしい。「さすが海の男」と、感心と敬意の気持ちを込めて肩を叩くと、綱海も眩しいくらいの白い歯を見せて笑った。



「今日はいい天気だな!」
「ああ、円堂なら絶好のサッカー日和とか言って、喜ぶだろうな」



綱海は綱海で、やることがありそうなので、さりげなく会話を切って走りだすと、ヒロトを置いてきてしまったよう。ま、いいか。後で謝ろう。軽い気持ちでまた走りだすと、通り過ぎる風景が、どんどん加速していく。どうも一人になると、ペースが速くなってしまう。困ったなあ、一定のテンポで走ることと、チャージとかのために瞬発力もつけたいし。ジ・エンパイア戦で学んだように、わたしはまだまだ頼りない。円堂が居なきゃ、何も出来ない。あーあ、みんなに迷惑をかけたくないのに。



「っと、おりゃあッ!
‥ん?なまえ?」
「?あ、円堂
…! ちょ、円堂!タイヤ忘れてる!」
「え?
あ、うわぁああッ?!」



りんごが地面に落ちるように、地球には引力が働いているわけで。円堂が投げたタイヤも、時間が経てば少しずつ威力を増しながら、落ちてくるわけで。円堂は、吹っ飛ばされた。元はといえばわたしが声を掛けたから、円堂が吹っ飛ばされたわけで。わたしは倒れこむ円堂に手を差し伸べ、持ち上げた。う、重い。やっぱり男子だな。



「ごめん、円堂」
「いーや、いいって!
なまえ、相変わらず早いな!」
「円堂こそ…珍しいな」
「め、珍しいってなんだよー!」



円堂守は、家族以外で唯一わたしのことを名前で呼ぶ人間だ。わたしだって、始めから周りに名前で呼ぶようにいっておけば、男だと勘違いされることもないだろうとは思ったけど、わたしには名字の方がしっくりくるらしく、気が付けばわたしのフルネームを知っているのは極僅かの人しかいない。まあ、人と話すときに何故か「俺」と言ってしまう癖が直らないこともあってか、FFIにはライセンスを所得して女子としてエントリーしているのに、チームメイトでさえ誤解している人がいる状況だ。



「なあ、なまえ」
「うん?なんだ円堂」
「サッカー、楽しいか?」



わたしは、かつてダークエンペラーズとかいう集団に入った恥ずかしい過去がある。その時は、感情的になって周りが全く見えなくなって、あまり思い出したくはない痛い思い出だ。その時から円堂は「俺がサッカーに誘わなければ」と気に病んでいるようだった。わたしはその時こそ上手くは伝えられなかったけれど、最近になって「円堂のせいじゃない」と伝えた。だって、そうじゃないか。



「俺、サッカー好きだよ
大好きだ、だからすっごく楽しい」
「!」
「あの頃は、俺が弱かっただけだ、円堂は悪くない
それに今は、円堂のお陰で世界中の強い選手と戦えてる
ぞくぞくして、わくわくしてしょうがないんだ」



「俺、頑張るから
お前の隣に立てるように頑張るから、」



―――守、サッカーやろうぜ!



「おう!もちろん!
頑張ろうな、なまえ!」










息するだけで変わり得ること

(勝利に向かって空に掲げた君の右手に)
(いつか、手が届きますように)

(みんなにとられる、から)
(今は未だ、男のふりしててくれ…)





もう誰得って話ですよね、オチがない…(;´∀`)
風丸さんは無意識の内に、優先順位の一番に円堂さんを置いている。
それに気付いているからこそ、余計なことはしない円堂さん。
ちなみに、たちむとかヒロトとか吹雪とか綱海とか愛で性別を越えれるであろう彼らは、風丸さんを男だと思っています。

もうごめんなさい、かなりお待たせしたのに、こんなダメ文で…!

よ、よろしかったらこれからもNero e biancoと時松杏をよろしくお願いします。


お題:alkalismさまより


11_06_05