中篇 | ナノ

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「みょうじ先生」
「…冬海先生」
「随分と意欲的ですね
ああ、そうですか 仕事がいっぱいあるんですね」
「はい、」
「大変そうですね」



わたしは自分の担当教科の授業や、下っ端故に頼まれた雑用を日々こなすだけで、精一杯な日々を過ごしていたからなのか。

あっという間に一週間が経とうとしていた。


円堂くんには、今日はまだ会っていない。

わたしは、学年主任の先生と同じ野球部の顧問をすることになっていたから。

どうにかわたしが顧問をすることは逃れられたものの、サッカー部の顧問がまだ決まっていない。

だから、どうにか冬海先生との接触を計っているんだけど、忙しすぎて。

まったくといっていいほど、関わっていなかった。


円堂くんは、わたしが断った後も、何度か話に来てくれている。

友達のように思われているのだろうか。

しかし、部が出来なければ、彼の入部届けが受理されなくなるため、提出期限が切れてしまう。

何故かわたしは、担任の先生から彼と仲が良いからと、彼の提出が遅れないようにするよう、念を押されていた。


昼休みの職員室で、一人わたわたと仕事に追われているわたしは今、念願の冬海先生と初めて会話をしている。

しかも、冬海先生から話し掛けてくれた。

嬉しいことなのだけど、わたしは会議用にと頼まれたプリントの整理に追われていて、一言、二言の返答しか出来ていない。

なんか、申し訳ない。

しかし、先生も似たような立場にいるからだろうか。

同情なのだろうけど、作業が一段落した今を見計らって、話し掛けてくれたように見えた。

意外と、優しい人なのかもしれない。



「す、すみません
折角話し掛けていただいたのに、手が離せなくて…」
「いえ、別に構いませんよ」



急ぎのようなら、わたしに構いなく話し始めるだろうけど、どうやら冬海先生は待ってくれるらしい。

しかし手伝ってくれないのは、また彼らしいけど。










「…今日は見かけませんね、彼
円堂、でしたっけ」
「え?
あ、はい」



作業が終わり、一息ついた頃。

冬海先生が口を開いた。

しかも、わたしが話したい内容をふってきたのだ。



「彼は、なんなんですか?」



冬海先生曰く、職員室で話題になっているらしい。

わたしも、円堂くんも。

話し始めると、周りが見えなくなるから、きっと五月蝿いんだろうな。

なんて、わたしが考えていたとき。



「取り引き、しませんか」
「取り引き、ですか…?」



冬海先生が、とある話を持ち出してきたのだ。

内容は、わたしにとって不利はなかった。

むしろ、有利だった。

なのでわたしの返事はもちろん。










躍世界

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