中篇 | ナノ

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翌朝、暖かい春風と共に元気よく現れたのは、昨日約束した円堂くん。

わたしは徹夜仕事後で、気分は最悪だったけれど、そんなことを知る由もない円堂くんは、昨日と同じようにまたにこにこと笑いながら現われたのだ。



「先生!約束!」



その二言だけ、元気よく発した彼は、わたしの返答を待っているようで。

今度は後ろに振り切れんばかりに振っている尻尾が見える気がする。

まるで、子犬に「遊んで遊んで」と催促されているようだ。



「あ、サッカー部の話?」
「はい!」



わたしは足りない頭で昨日考えた結果、わたしがこの世界に来たことで、ストーリーが変わっている可能性があることに気が付いた。

そこで、わたしがストーリーを変えていったとする。

するとそのことによって、ストーリー上で傷ついた人が傷つかなくなるかもしれない。

しかし反対に、傷つかなくてすんだ人が傷ついてしまうかもしれない。


そう、ストーリーに関わるということは紙一重なのだ。


そこでわたしがたどり着いた結果は、ストーリーを邪魔しない程度に、関わり、進めることにした。

まず彼がサッカー部を作らなければ、ストーリーは始まらない。

だから、上手く誘導する必要があるのだ。



「うんとね、調べてみたんだけど
やっぱりこの学校にサッカー部はなかったの」
「そう、ですか」
「でもね、サッカー部を作ることは出来るよ」
「サッカー部を、作る?」



沈んだ顔が、一瞬にして光が射したように、輝く。

そう、今諦めちゃダメだよ。


わたしは顧問や部室のことなど、ストーリーでは冬海先生がやった説明を円堂くんにした。

すると、円堂くんからこんな言葉が発せられた。



「じゃあ先生、顧問になってよ」
「わたしが?」



ねえ、いいでしょう。



そこで初めてわたしは、困ってしまった。

そうだ。

まだ円堂くんは冬海先生と関わってないから…



「えっと、それは」
「ダメなんですか?」
「だ、だってわたしは………この学校の赴任歴が少ないし」
「新しく作るんだから関係ないじゃん」
「ご、ごもっともです…」



どうしても、逃げることは出来ないようだと悟ったわたしには、職員室の先生方の視線が突き刺さっていた。

ああ、生徒にいいくるまれてるし……五月蝿いからか。



「うんと、朝のHR始まるから、後でね」



その場しのぎの言葉は、後々自分を苦しめるのだと、わたしは改めて学んだ。










躍世界

(ファーストミッション、遂行失敗?)