中篇 | ナノ

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「先生、サッカー部無いんですか?」
「え?
あー、プリントに載ってなかったら無いんじゃないかな」
「そう、ですか…」



バンダナの端からはみ出した髪は、垂れ下がっていて。

それはまるで悲しくてしょうがなくて、耳が垂れ下がってしまった子犬のようだった。

あ、なんか凄く撫でたい。



「円堂くん…サッカー、好きなの?」
「はい!もう大好きです!」



一瞬にして水を得た魚のように、真ん丸な瞳を輝かせた円堂くんは、にこにこの笑顔でその瞳にわたしを映した。

もう、ほっんと可愛いなあ、この子。



「先生もね、ちょっとだけだけどやってたんだ」
「そうなんですか!」



放課後の音楽が流れる中、段々と教室、廊下と人気が少なくなっていく。

そんな中、わたし達はサッカーの話に花が咲いてしまって、気付かない。

はっと気が付いた時には、下校時間が過ぎていた。



「やば、まずいよ円堂くん
えっと、裏門から出してあげるから、みんなに内緒ね、ね?」
「あ、うん
………そ、そうだ、先生、サッカー部!」
「え?
あ、えーっと…また明日相談聞いてあげるから、ね?」



こんな時間まで生徒が残っている―――――きっとわたしの指導不足だと怒られてしまうだろう。

円堂くんも、きっと怒られてしまう。

しーっと口の前で人差し指を出して、彼の背中を押せば、にこにこと何処か嬉しそうに笑っている。



「先生!」
「うん?」
「約束だからな!」
「うん、約束ね」



敬語を忘れているようだけど、急いでいるから仕方ない。

わたしは急かすように、また円堂くんの背中を押すと、彼はまだ嬉しそうに笑っている。



「それと、楽しかった!」
「そう…」
「クラスに、話が合う人いなくてさ!
だから、嬉しかった!」
「そっか、よかった
じゃあさようなら 気をつけてね」



わたしは二つ約束をしたのだけど、わたしが念を押した約束と、彼が口にした約束は違うことに気が付かなかった。

彼の笑顔に、やられてしまったのだと思う。











躍世界

(セカンドコンタクトは、成功?)