中篇 | ナノ

:: 0






わたしは産まれたときから、不思議な子どもだった。

前世の記憶というものがあったからだ。

極稀に、母親のお腹の中にいた頃の記憶があったり、普通の人は月日が経つ毎に忘れていく幼少期の記憶がある人がいるらしいけれど、わたしの場合は生命が宿る前の記憶があるのだ。

それも、かなり鮮明に残っている。

小さい頃は、かわいい等の一言で返されていたけど、やっぱり普通ではないことは、変に思われる。



だから、歳を追う毎に話さなくなっていた。



歳を重ねれば、やれることが増えてくる。

近所を探険し、また興味があることにはとことん突き進んで追求する。

そんな毎日を過ごすうちに、胸の内に秘めていた記憶が、より確信的になっていった。

わたしが前育った場所とは違う場所だけど、何処か見覚えがあった。

そして、此処が何処なのか。

はっきり分かったのは、小学生になったときだった。



わたしは、稲妻町に生まれた―――――そう、イナズマイレブンの世界に生まれ変わったのだ。



学生の頃、夢中になって見ていたアニメだった。

現実とは掛け離れた設定だったけど、現実に近い友情や絆が濃く鮮明に描かれていて、当時一世を風靡した。

わたしも、出てくるキャラクターに憧れを持ったものだった。

しかし気が付いた時、そうわたしが生きている時代に、そのキャラクター達は居なかった。

だとすれば、この世界は彼等が生きた過去、それか未来なのだろうか。

だとしても、会ってみたいというのが本心だった。

自分が超人的なサッカーをする気にはならなかったけれど、前世とは違う自分になれたのだ。

新しいことを始めるにはもってこいだと、密かに決意したわたしは性別というハンディキャップを背負いながら、サッカーを始めることを決意したのである。

まずは徹底的にルールを覚え込み、両親に頼み込んで近所のクラブチームへ入団した。

始めてみれば始めてみたで、幾度と壁にぶつかった。

やはり、生半可な気持ちでは、何事も上手くいかないものなのだろう。

前世の記憶であったように、彼等が傷ついてしまうのなら、防げるのは結末を知っているわたししかいない。

そう、勝手な正義感だけが募っていく。

この記憶さえなければ、普通に生きていけたのだろうか。

そう、考えるときも少なからずあった。

しかし、やらなければ前には進めない。



新たに決意し、サッカー漬けの毎日を過ごすうちに、熱心に打ち込めば打ち込むほど、結果が面白いくらいついてきた。

そう、その時にわたしはこの世に生まれて初めて、嬉し涙というものを流したのである。



ジュニアリーグで成績を残したわたしだったけど、突然の引っ越しで全てがリセットされた毎日を迎えた。

フィールドに立つ彼等と同じ情熱を持てた青春に、満足したというのも一理ある。

中学のときに彼等を取り巻く大人達に出会ったことも、大きなきっかけだったのだけど。

わたしは、中学、高校と歳を重ねるうちに、わたしは段々とフィールドを離れた。

わたしが生きる時代は、彼等が生まれる前の時代。

そう確信的に分かったとき、わたしは教師になることを決意した。

大人になるなら、きちんと彼等を導ける立場にいるべきだと考えたからである。



わたしが大人になっていくのは、限りなく長い日々だったように感じた。

そして今、わたしはこの新しい人生のスタートラインに、やっと立ったのである。











躍世界

(あ、君は…)