中篇 | ナノ

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雨が降る。
午前中、快晴だった空は一変し、どんよりとした雲が広がっていた。
そういえば、今日傘持ってないなあ。
振兄ちゃんも、震ちゃんも、持ってないだろうなあ。
午後の授業、SHRが終わると、パラパラと散っていく人影。
ほとんどの運動部は、練習がなしになったらしい。
他人事のように考えるなまえは帰宅部。
後は帰るだけだというのに、雨が邪魔をする。



「今日は、タイムセール間に合うかなあ…」



部活終わりに、振蔵が濡れて帰って来る前に、お風呂だって支度をしておきたい。
なまえと同じく帰宅部な震平は、いつ帰って来るだろうか。
どのみち早く帰って、兄弟のためにすることがたくさんある。



なまえは帰路につくために、考えていた時だった。



「あ、」
「…? 震ちゃん?」



玄関から外を眺めていたなまえが振り返ると、震平が立っていた。
その手には、なまえセレクトの青いチェック模様の傘が握られていた。



「震ちゃん、傘持ってたんだ」
「前に午後から晴れた日があっただろ?
そん時に置いてってたみたいでよ」
「そうなんだ
よかったね、震ちゃん」
「………なまえ、持ってないのか?」
「うん、残念ながら」



あはは、と陽気に笑ってみせたなまえに、震平は眉を寄せた。



「ほら」
「え?」
「早く、持ってけ」
「ダメだよ、震ちゃんが濡れちゃうもの」
「いいから」
「よくないよ」
「ったく、変なとこ頑固だな」
「震ちゃんのほうが頑固だよ
昔から、人一倍強情だったし」
「なんだと?」



せっかく人が気ぃ使ってやってんのによ。
ボソッと零した震平に、なまえは



「風邪引いたら、振兄ちゃんうるさいもんね
丹念が足りないとかなんとかって」



少しズレた発言をした。
それも間違ってはいないのだが、震平が言った意味とは少し違ったのだ。



「………まあ、それもあるけどよ」



―――たまには素直に、甘えろよ



むすっとした震平の顔には、不機嫌だとあからさまに書いてある。
それでも少しだけ赤いのは、照れている証拠なのだろう。
震ちゃん、昔から優しいもんなあ。
なまえは胸の辺りがホカホカと温かくなっていくのを感じた。



「ありがとう、じゃあ一緒に帰ろう?」
「は?」



だって、わたしが傘をもらったら、震ちゃんが濡れちゃうもの。
なまえがそう答えれば、震平は少しためらったが、何を今更照れる必要があるんだと、なまえが笑い飛ばした。
それもそうか。
渋々頷いた震平を見て、なまえは思春期ってよく分からない、と首を傾げていた。



「じゃあ、優しい震ちゃん、買い物も手伝ってくれる?」
「………しゃーねーな」











だいま

(俺たちのためだってことは分かってるから)
(無視なんてするわけないだろ)