中篇 | ナノ

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ケータイが鳴った。
普段どおり、振蔵にお弁当を届ける為に、昼休みに走り回っていたなまえは、慌て受話器を取った。



「振兄ちゃん?!!
どこにいるの?」
『今、スケット団の部室にいるのであるよ』
「スケット団?」



最近、剣道の腕の上達に悩んでいた振蔵の相談にのってくれたスケット団。
振蔵曰く、優しい人ばかりで、居心地がいいと言っていた。
普段なら、昼休みに振蔵は一人体育館に行き、時間ギリギリまで練習をし、慌てお弁当を食べるということの繰り返しだった。
だから、なまえは真っ先に体育館に向かったのだが、振蔵の姿が見えず、困っていたのだ。



「わ、分かった
すぐ行くね」
『かたじけない』



自分のお昼ご飯もまだなのに。
なまえはいつも以上に時間がかかってしまったことに、少し溜息をついた。




















「こ、こんにちは」
『おうなまえ、助かったでござる』
「ううん、大丈夫」



スケット団の部室にたどり着いたなまえを笑顔で迎えてくれた振蔵にお弁当を渡すと、なまえは自分に視線が集まっていることに気がついた。
な、なんだ。



「え、もしかして振蔵の彼女?!!」
「愛妻弁当か、愛妻弁当なんか?!!!」
「え、ち、ちが…ッ」


[彼女は1年C組のみょうじなまえ
振蔵の幼馴染みだ]



「あ、はい そうです」



あれ、この人初対面なのになんで知ってるんだろう。
なまえが疑問に思っていると、「スイッチ、アンタ一年のデータまで完全網羅か、気持ち悪いわ」とツッコミが入る。
スイッチ…?
ああ、二年生の笛吹先輩か。
確か物知りで、カッコいいって有名な人だ。
ヒメコのツッコミにより、なまえの中で自己解決された。



「へー、振蔵の幼馴染みかあ
でもなんで弁当?」



ツノのついた赤い帽子にゴーグルを付けた人が、なまえに話し掛けた。
なまえは長年の経験から、何となく予感がしていた。
武光兄弟―――特に振蔵には、仲の良い女子なんて滅多にいない。
だから、なまえが仲良くしているのは、毎回いい噂の的になるのだ。
兄弟のように思っているから、仲が良いと言われるのは、別に構わない。
だけど、自分なんかと勘違いされるのは、いくら幼馴染みの振蔵といえど、相手に申し訳ない気がする。
今回も面倒事になる前に、逃げよう。
なまえは決意した。



「お、お気になさらないでください
ではわたしは…」
「え、あ、ちょっとみょうじさん!」



なまえは全速力で逃げ出した。
それを見たスケット団は、首を傾げた。
なんか、避けられたような…。



「なまえは昔から恥ずかしがり屋なのでござるよ
根はとってもいいおなごなのでござるが…」
「そりゃあ、見たら分かるけど…」
「振蔵と仲が良い女子なんて、珍しいからなあ」
[彼女は新聞部主催の1コンテストで
ミス人気者1、ミスやさしい人1、ミスプリティ1の異例の三冠を受賞したらしい]
「なんやて?!!」
「‥‥お、俺なんて…」
「あかん!このネタはボッスンが卑屈になってしまうんやった!!
ってスイッチも改めてメダルかけんでもええねん!!
絶対面白がっとるやろ!!」



振蔵は、スイッチの情報を聞いて、驚いていた。
なまえが1コンテストでそんなに受賞しているとは、知らなかったのである。
元々目立つのが嫌いで、恥ずかしがり屋ななまえは、自慢等をする気がなく、振蔵に話していなかったのだが。
振蔵は、満足気に笑った。
恥ずかしがり屋故に伝わりにくいなまえの人柄が、他人にも理解されたことが嬉しかった。
もちろん兄としての喜びだった。



「それにしても、みょうじってなんつーかあれだな
振蔵の侍にぴったりっつーか…」
「ああ、分かったでボッスン!
あれや、大和撫子や!!」
「大和、撫子…」
「振蔵の幼馴染みだからかあ?
なんかそんな感じすんだよなあ」
「優しくてかわいいしなあ
あ、ちょっと振蔵、それ見してみい」
「な、なにをするでござるか、ヒメコ殿?!!」
「思った通りや!
料理めっちゃ上手いやん!」
[振蔵には勿体ないな]
「た、ただの、幼馴染みでござるよ!!」











んにちは

(皆に理解されるのは、嬉しいのだが)
(この気持ちは何というべきか)