中篇 | ナノ

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「あ、」
「あ…」



帰り道、街灯にちらほらとあかりが灯り始めた頃、なまえは前方に見慣れた背中を見つけた。

相変わらず、猫背の丸い背中。

何処か悲しそうにも見えるその姿は、捕まえておかないと、どこかに消えてなくなってしまいそうで。

なまえは迷わず、声を掛けた。



「速水くんも、こっちなの?」
「は、はい
………みょうじさんも、ですか?」
「うん」



普段からネガティブな考え方をする速水は、一緒に居ることの多い浜野とは正反対の性格だった。

大抵は浜野に振り回され、同じように行動をしているみたいだが、速水自身が望んでやっているとは思えなかった。

もしかしたら、自分の意思を伝えるのが苦手なのかとも思っていたなまえだったが、彼は本当に嫌なことは、言えている。

ただ、ポジティブに考えられないだけなのだと。



「もう二年目になるのに、今日が初めてって…なんか不思議だね
部活とか、終わる時間も一緒のはずなのに」



それは、いっつもみょうじさんが遅くまで残って、仕事をしているからじゃないですか。

自主練組じゃないボクなんかと、一緒の時間には帰れてないでしょう。


速水は、出かかった言葉を飲み込んだ。


最近、不安要素が頭から離れない。

だから思考が、今まで以上にマイナスに走っていく。

ああ、なんでなんだろう。


速水の歩くペースについてこようと、早足で歩いているなまえをちらりと盗み見る。

手には絆創膏が痛々しく貼られている。

ああ、今日重たいドリンクを一人で運んでたしなあ。

なまえは普段から、いろんな人に頼られる存在。

人がいいと言うか、お人好しと言うか。

そういえば、二人っきりで話すことなんて、一度もなかったかもしれない。

いつもドリンクを手渡ししに来てくれるときに、一言二言交わすだけ。

まあ、なまえはこの人だから、と差別する気もないし、話し掛けられたらいくらでも話す人間なのだが。

忙しそうにしているなまえを呼び止める程、速水には勇気がないだけだった。



「あの、」
「?
どうかした?速水くん」
「…みょうじさんは、怖くないんですか‥‥?」
「こわい?」



立ち止まった速水は、真っ直ぐになまえを見る。



「フィフスセクターの、こと?」
「はい、
だ、だってみんなおかしいじゃないですか
そりゃあボクだって、本当の楽しいサッカーがやりたいですよ?
でも、でも…そんな、フィフスセクターに逆らうようなことをしたら‥‥」



全部が、零れた気がした。

不安で不安で、仕方がない。

速水の表情は本物で、なまえもその表情を見て、暫く黙り込んだ。



「そりゃあ、わたしだってこわいよ?」
「ッ?!!」
「みんながみんな、速水くんと同じように、こわくて仕方ないと思う」
「だったら、どうしてッ?!!」



速水の目の前に立ち止まったなまえは、真っ直ぐに速水を見つめ返した。



「みんなが言ってたとおり、これは革命なの
誰かが、やらなきゃいけない」


「わたしたちは、ただの中学生だけど
同じ夢を持った人が、たくさんいるの
だから、大丈夫」


「速水くんは、一人でやろうと思わなくたっていいんだよ?」





―――みんながいる、一人じゃないよ?



それは、魔法の言葉だった。

速水は溢れだす涙を、抑えることが出来なかった。



「あ、れ?!!
なんか、ごめん速水くん!」
「い、いえ、………やっぱりみょうじさんは、すごいですね」
「え?」
「ボク、浜野くんにも言われたんです
やってみてもないことを、出来ないって決めつけるなって」


「ボク、正直まだ怖いですけど」





―――その時、みょうじさんも、一緒に戦ってくれますか?





「もちろん!
だってわたしたち、仲間でしょう?」



彼女が皆に好かれる理由が、速水にも分かった気がした。










SUCCESS!


(ネガティブなボクでも、仲間と言ってくれるんですね)