中篇 | ナノ

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雨天時でも使えるグラウンドを完備している雷門中サッカー部だが、今日は久しぶりに部活動が休みだった。

雨も降っていないのに。

寧ろ快晴なのに、だ。

それをいい機会に、なまえはテストに向けての勉強をするために、図書室に来ていた。

窓際の一番後ろ。

決まって座るその席に腰を下ろすと、まるでなまえは取り付かれたかのように夢中で―――魔法にでもかかったかのように、持ってきたワークやらプリント、ノート整理を始めた。

その姿は図書室を利用する生徒の模範のような姿で、後ろ姿だけでも真面目なオーラがしみ出ていた。


暫く経ち、なまえの前に終わったワークの山が出来始めた頃だった。

一瞬、ぴくりとなまえの身体が動いた。

直ぐにスカートのポケットに手を突っ込む。

指先にこつんと当たったそれを取り出しスライドすると、鮮やかなディスプレイが浮かび上がった。



―――新着メール一件。



誰だ、せっかく集中してたのに。

不機嫌オーラ丸出しで、携帯電話のボタンを押してメールを開いたなまえは、そのメールに一度目を通すと、申し訳なさそうに席を立って、少し席の片付けをしてから図書室を出た。

あーあ、学校ではあんまりケータイ出さない真面目でいようと思ってたのに。

荷物置いたまま―――というより、早く帰る口実なのだけど。

どちらにせよ早く要件済ませて、図書室戻れるといいけど。

なまえは妙に命令形なメールの為に少し苛立ちながらも、駆け足で廊下を進んだ。















要件は、やっぱり直ぐには終わらないようだ。

なまえは目の前で偉そうな態度で脚を組み、座っている―――南沢を見て、バレないように少しながら溜息を吐いた。



「どうしましたか、先輩……?」
「……………別に?」
「は?」



しまった。

相手は年上なのに、つい生意気な言葉が出てしまった。

まあ、今回ばかりはしょうがない。

今のは事故だ。

なまえ、またもや自己解決で済ませたようだ。

その様子を見ていた南沢は、にやりと怪しい笑みを浮かべながら、口を開いた。



「理由がなきゃ、呼んじゃいけないわけ?」



わたしはあんたの彼女か!

と、思わずなまえの突っ込みスキルが発動しそうになるが、なまえはなんとか抑えた。



「いや、……その、普通は何か理由があると思うんですけど」
「……みょうじだからいいんじゃね?」
「どういうこと、ですか‥‥!」



この人、横暴だ!

なまえは今まで以上に、南沢への拒絶が強まったのを感じた。



「冗談だよ、半分くらい」
「……じゃあ後の半分は何ですか」



相変わらず、怪しげな笑みを浮かべたまま、なまえを見つめる南沢に、なまえは何とも言えないものが胸の内に渦巻いた。

分かりやすく言えば、この人絶対友達居ないな。

みたいなかんじだ。


南沢は、ミーティングルームのソファーに脚を組みながら座っていたが、なまえをからかうように笑ってから、不意に目を反らした。



「なーんで休みなのにグラウンドに来なきゃいけねーの?」
「?」
「万が一のことも考えずに
滅茶苦茶な練習してる奴がいるからだろーが」
「…!
わたし、行ってきます」
「へー?
みょうじなまえちゃんはいい子だなあ?」
「………南沢先輩こそ、」



つまり、南沢は休憩もとらず、怪我の可能性も全く考えずに、休みなのにも関わらず練習をしている後輩が心配なようだ。

しかし、心配しているなんて言える訳がない。

南沢のプライドは、人一倍高いのだ。



「先輩こそ、不器用じゃないですか
無駄に高いプライドなんて、捨てればいいじゃないですか」



なまえは、言おうと思った言葉を飲み込んだ。

まあ、それがあるから南沢らしいと、なまえは思った。











SUCCESS!


(あ、勉強道具…!)