中篇 | ナノ

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わたしは野球部の顧問をしている。

と言っても、学年主任の先生が監督をつとめているから、ほとんど任せっきりなんだけど。

それに、わたしは野球かサッカーと聞かれれば、迷わずサッカーと答える人間だから。

本当のところ、ルールしか分からないような状態なのだ。

そんなわたしは、練習日程を組んだり、お知らせのプリントを作ったりと、選手とはまったく関わりのない立場で、野球部に所属している。


わたしは新任だし、生徒にあまり知られてない。

だから、今日みたいにたまに暇が出来たときに、差し入れとして蜂蜜レモンを作っていったり、マネージャーの手伝いをしたりしている。



「あ、みょうじ先生!」
「マジで!」



野球部のバックネットの裏から、そっと練習を覗こうとしていたわたしを、誰かが見つけたようだった。



「邪魔しちゃった?」
「全然!いいっすよ!」
「マネージャー!休憩まだー?」
「もう!みんなったら」



マネージャーがしょうがないとでも言いたそうな顔で、休憩と声をかけると、自主トレをしていたらしい選手達はベンチ近くへ集まってきた。

わたしは手招きされ、その輪の中心へと入ると、早く早くと催促された。



「あ、もしかして分かったの?」
「俺、先生の蜂蜜レモン好きです!」
「俺も俺も!」



わたしもジュニアリーグ時代、大好きだった蜂蜜レモン。

練習後の疲れた身体に、蜂蜜の甘さとレモンの酸味が効くのがたまらなかった。

万人にうける蜂蜜レモンは、やっぱり野球部にも人気のようだった。

よかった。


大きめのタッパーの底が見えないくらい敷き詰められた蜂蜜レモンを、あっという間に平らげた選手達は、爽やかに汗を拭き、またマウンドへ駆けていった。



「みょうじ先生がくる時は、みんな凄い気合い入ってるんですよ」
「なんでばれたかなあ」
「なんか、朝に先生がいつもタッパー容れてくる袋を持ってるか確認する係がい
るらしいんです」
「えー、そうなの?」



驚かせたかったのに。

そう呟けば、マネージャーはクスリと可愛く微笑んで、残っていた蜂蜜レモンを摘んで、口に含んだ。



「わたしも、大好きですよ
先生の蜂蜜レモン」
「ありがと」



マウンドで、汗を光らせながらボールを追い掛けている選手を見ていると、わたしがかつて青春の汗を流したサッカーが恋しくなった。

彼等は、どうなったんだろう。










躍世界

(今は未だ、準備段階だけど)