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「今から、時間あるか?」



そう電話がかかって来たのは、真冬の夜九時頃だった。中学三年生にとって、この冬で人生が決まるようなもので、本当は時間なんて一分一秒でも惜しいくらい。それでも、「うん、分かった」と二言で答えてしまった数分前の自分を恨みたい。今まで来るものは拒まず、去るものは追わずで生きてきたから、わたしにとって断るという選択肢は無かったのだと言い訳をしてみる。ああ、それにしても外寒そうだなあ。わたしは今の今まで勉強していて、向かっていた机にシャープペンシルを置いて立ち上がると、部屋に置いてある鏡越しに自分の姿が目に入った。勉強する時に邪魔になるからと、前髪はピンで上げていて、もし今取っても後がついてしまっているだろう。もこもこの上着にルームソックスと、完全にわたしは冬ごもりの格好をしているじゃないか。どうしよう。例え相手が女友達だったとしても、絶対に会えない格好である。はあ、しかもよりによって南沢くんだしなあ。ファッションとか絶対こだわりありそうだし。ただでさえ、目立たなくて冴えない自分なのに、私服までダサかったら、もう終わりじゃん。まあ、私服に自信があるわけじゃあないんですが。


お風呂に入ってしまったから、コンタクトではなく眼鏡なのは諦めた。部屋着であるスウェットから、わざわざレギンスを履いて、ショートパンツにブーツも取り出した。ああ、もう五分も経ってる。上は、ええいそのままコートを着て、マフラー巻いて耳あてして、ニット帽も被っちゃえば前髪もなんとかなるでしょ。今日なら寒さを言い訳に出来るはず。


そうやって、適当に考えていたのがいけなかったんだろうか。


はあ、それにしても眼鏡曇るなあ。















「ご、ごめん、待った…よね、?」
「大丈夫」
「……」



わたしの家の近くの公園に、去年のクラスメイトである南沢くんに呼び出された。全速力で走って来たけれど、電話をもらった時点で南沢くんは待っていた訳だから、何だか申し訳なくなる。でも一体、どうしたんだろう。わざわざ呼び出す程、大事な話なんだろうか。用件は後でと言われていたし、元々去年は学年末にみんなで集まった際に、流れでアドレス交換をしただけで、そんなに仲が良かった訳じゃなかったと思うし。だから初めてケータイの画面に表示されたその名前に、かなり驚いたのが事実であって。


公園の街灯の側に立っていた南沢くんは、わたしが話し掛ける前から、ずっとマフラーに顔を埋めていて、その表情は全く見えない。何なんだろう。何か言ってくれないと、わたし、どうしようもないんだけど。何かいい話題ないかなあ。手袋はしてるけど手をこすりあわせて、なんとか寒さと沈黙からの気まずさを取り払おうと考えていると、南沢くんが動く気配がした。顔を上げて視線を南沢くんに合わせると、南沢くんもこちらを向いていたようで、恥ずかしくなるくらいばっちりと視線が合った。



「何て言ったらいいのか、分かんねえんだけどさ
…………俺、みょうじのこと、好きなんだわ」
「…へ?」



一瞬何を言われたか分からなくて。というよりも、わたしの頭が理解しないようにしている気がした。何かの冗談だろうと、笑い飛ばそうと思ったのだけど、わたしの目の前には依然として真剣な表情をした南沢くんが居て。笑い事ではないんだと、無言で語っていた。え、なんでなの。



「なんで、わたし…?
南沢くん、彼女居たでしょ?」
「は?」
「え?」



南沢くんは三年生に進級してすぐ転校してしまったのだけど、その時点ではかわいい彼女さんが居たはずだ。確か、テニス部かなんかで、ポニーテールが似合う…



「みょうじが何を誤解してるか知らねえけど
俺、今まで一人も彼女なんて居たことないんだけど」
「え……?
だ、だって南沢くん、モテる…じゃん」



先輩にも後輩にも、南沢くんと付き合ってると自慢していた人が過去にたくさん居た。わたしはそう記憶しているし、そういう話はよく耳にする。え?どういうこと。



「確かに告白されたことはあるけど、俺は一年の頃からみょうじしか見てねえし
それ、噂だろ?
直接俺とかそいつらから聞いたのかよ?」



いつになく真剣な表情をした南沢くんは、真っ直ぐとわたしを見てくる。え、どうしたらいいの。わたし、こういう経験値ゼロだから、分かんないよ。
ちょっと考えさせて。下を向いてうつむいていたわたしは、街灯があたっているはずの自分の身体が、途端に影になったことに気が付いた。ゆっくりと顔を上げてみる。すると、さっきまでマフラーに覆われて見えなかった南沢くんの顔が、耳が、頬が真っ赤に染まっているのが、本当に目と鼻の先に見えた。き、緊張しているのだろうか。当たり前か、告白したんだし。…わたしに。


よく分からなくなってしまって、考えが全く浮かばないわたし。さっき南沢くんは、一年の頃から見ていたと言っていた。…全然気が付かなかった。見られていたと考えると、何だか恥ずかしい。なんで、わたしなんかを。



「今すぐ、返事くれなくてもいい」
「え?」
「もしよくない返事だったとしても、俺の為に真剣に考えてくれただけで嬉しいから」
「…南沢くん、」



一回も振り返らずに、ただ一度だけ手を上げて別れを告げた南沢くんの後ろ姿がだんだんと遠くなる。あれ、なんだろう。急に身体が熱くなってきた。今まで遊び人みたいな人だと思ってたけど、南沢くんってすごく大人なんだ。わたし、ときめいてる。


さっきまで覚えていた単語達が、どんどん消えてなくなっていくのが分かった。もう、南沢くんのばか。受験どころじゃなくなったじゃん。










にじいろをありがとう



南沢くんのばか!

好きになっちゃったじゃないの!











イナGO!第三号でやっと南沢さん!
でも、かっこいい南沢さんが書きたかったのに
このうだうだはどういうことだ!
ああ、俺のせいか。
南沢さん、一途なヒトだといいなあ…

受験生頑張れ!


お題:alkalismさまより


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