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まるで絵本で描かれるような綿雲のようにふわふわのシフォンケーキは、口に入れると直ぐに溶けてしまうから、少し悲しくなる。

口の中に残ったほのかな甘さは、嫌味ではないくらいでちょうどいい。

甘いものを食べているときは、もう幸せな気持ちになって、何も考えれなくなるもの。

女の子だったら、尚更だと思う。



「どう、ですか‥‥?」



控え目に、しかも普段は滅多に使わない敬語で尋ねてくるのはマルコ。

そう、このシフォンケーキを作ったのは、他の誰でもないマルコなのだ。


今日も練習があって、わたしはマネージャー業を全て終えた後に食べようと思って取っておいたシフォンケーキを、マルコが食べてしまった。

そのシフォンケーキは、元々はイタリアエリアに新しく出来たケーキ屋さんで買ってきたもので、昨日みんなで分けたものだった。

わたしは(よる食べると太るから)今日食べようと取っておいた。

それをマルコは、昨日自分の分も食べたのに、食べたのだ。

寄宿舎の約束通り、自分のものにはちゃんと名前を書いておいたのに。

わたしは鈍臭くてみんなには迷惑をかけてばかりだから、普段はあんまり怒ったり、嫌がられるようなことはしないようにしているけど。

今回ばかりは許せなくて。

だって、みんなは知らないかもしれないけど、経費を出来るだけ節約して節約して、やっと貯まったお金で、買ってきたシフォンケーキだったのだ。

自分が食べたかったのもあるけど、みんなが普段すごく頑張ってるから、少しでも癒してあげたり、喜ばせたりするためにと貯めていたお金で買ったものだし。

「馬鹿!」って大きな声で叫んだわたしは、怒りのあまりにさっきまで部屋に引きこもっていたのだ。

でも、流石に怒りすぎたと思って反省して、でもやっぱりあんなこと言っちゃったから話すのは気まずいし。

部屋から出るタイミングを失ってしまったわたしは、ベッドの中で小さくなっていた。


そんな時、控え目にドアをノックされて、わたしは「はい」と小さく返事をした。

ドアを開けると、ドアの先にいたマルコが、下を向きながら差し出した皿の上に乗っていたシフォンケーキに、わたしはどうすればいいのか分からなかった。



「ごめん、初めて作ったから
不味いかも、しれないけど……」
「‥‥」



粉で白くなった顔をかいて、エプロンのポケットに手を突っ込んで立ち尽くしているマルコ。

わたしは何も言わずに、というより何も言えずに皿を受け取って、マルコに席を勧めた。

そして一口口に含んだ今、控え目に聞いて来たのだ。



「どう、ですか‥‥?」



と。


元々パスタ料理を生地から作ってしまうような、料理上手だし。

器用だから、シフォンケーキくらい作れてしまうのだろうけど。

なんで、わざわざ作ってくれたんだろう。



「…ご、ごめんね」
「え?
やっぱ不味かった?!」
「そうじゃなくて!」



わたしも、怒りすぎたし。


そう、素直に謝ると、突然マルコは黙り込み、顔を伏せてしまった。

やっぱりあんなこと言っちゃったし、許してくれないかあ。

わたしも思わずうなだれそうになったとき、突然マルコは顔をガバッと凄い勢いで上げて。

気が付けばわたしはマルコの腕の中に居て。

あれ、なにこれ。



「マルコ……?う、もしかして、泣いてるの?
や、やっぱりわたし なんかした?
ごめんねさっきのは本当に」
「……、……て」
「うん?」
「‥‥き、嫌われたかと思ってた、から」



よかったぁああ!

と、凄い力で抱き締めてくるマルコに、わたしはぽかーんとただ座っていた。

確かに許せないけど、そんなことくらいで嫌いにはならないのに。

マルコはマルコなりに、悩んだようだった。



「なまえー、ボクも食べたいなあ」
「うん?
いいよ、アンジェロ」



気が付けばわたしが座っているベッドの隣に腰掛けていたアンジェロが、わたしがさっきまで食べていたシフォンケーキを頬張っていた。

やばいよこれ、超可愛い。



「ちょっ、ばか!
これはなまえのために作ったんだぞ!」
「いいじゃん
なまえが良いって言ってくれたんだから」
「よくない!」
「マルコのケチ」



なまえー!と悲しそうな顔で抱きつかれれば、わたしは突き放すことなんて出来ないから。

てかわたし、囲まれすぎじゃないかな。

左側にアンジェロ、正面にマルコって。



「じゃあ、俺こっち」
「俺も!」
「もう!なんでみんな集まってくるんだよぉ!」



あれ、おかしいなあ。

唯一空いていて、動かせれた右腕はがっちりジャンルカにホールドされていた。

身体は後ろからフィディオに抱きつかれているようで、余計に身体は動かない。

ジャッポーネの言葉で「両手に花」っていうのがあるけど、こういう場合は何て言うんだろう。

周りに花、とか?

あれ、でも前にもこんなことあったよなあ。


なに馬鹿なこと考えてるんだろうなあ、わたし。

みんながあんまり近いもんだから、頭が壊れてきたのかも。

いくらわたしがイタリア女子だからといって、男慣れしてるわけじゃないんだし。



「いやぁ、なまえが怒ってからさ
マルコがめっちゃ真面目にそれ作り出したから、どうなったか気になって」
「だって、ジャンルカがあれじゃあ嫌われたなとか言うからだろ!」
「でも、まさかマルコが自分で作るとは思わなかった」
「うん
買ってこればいいのにね」
「あ、その手があったか」



変なとこ抜けてるよな、マルコって。


みんなにグサグサと攻撃されたマルコは、暫らくは弁解するように大きな声で話していたけど、気が付けば顔をわたしの胸に伏せるように抱きついたまま、座り込んでしまった。

あーあ、マルコすねちゃった。



「マルコ」
「……」
「ねえってば」
「………」
「マールコー?」
「……、‥‥」



話し掛けたって、何も言わない様子から、相当傷ついてしまったらしい。

みんなの方を見ると、関係ないみたいな顔をしていて。

ジャンルカなんて、すまして口笛なんか吹いてるし。

ねえ、わたしの方こそ関係ないと思うんだけど。



「じゃあ俺はこれで」
「俺も」
「え?あ、じゃあボクも」



そそくさと三人は退場しちゃうし、ねぇなんで逃げるの。



「……マルコ」
「‥‥‥‥‥‥」
「料理上手な人ってさ、凄いと思うよ」
「、……」
「きっとマルコの奥さんになるひとは、幸せだろうね
料理上手で、かっこよくて、気遣ってくれて」
「……じゃあ、」
「うん?」




なまえは幸せ者だな










ミルクとソーダ水みたいに、僕らは一生交わらないかもしれない




(え?なんで?)

(……さすがなまえ)
(………あんなに分かりやすい告白なのにね)
(……どんまいヘタレマルコ)

(…………もう泣いちゃう)
(え?マルコ?)










なんかごめんなさい(m´・ω・`)m



11_04_15


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