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帰りのHRが終わり、騒々と教室から出ていく人の波と一緒に教室の中から活気が無くなっていく。
窓際の席に座るわたしは、鞄を片付け終わると、頬に手を当て景色を眺めた。
校庭の木々はすっかり衣裳を纏っておらず、寒々しい。
既に散った落ち葉は木枯らしに吹かれて、寂しそうに舞っていた。

(外、寒そうだなあ)

はーっと息を吐き出せば、教室の窓がわたしの息で白く曇る。
真っ白に曇ったのは、教室と外の温度差が激しい証拠。
教室内は暖房が効いているけど、決して暖かいとは言えないくらいの暑さ。
それでもくっきりと曇るということは、外はよっぽど寒いようだ。
また窓に息を吹き掛け、何故か面白くなってさらに指で落書きをしていると―――――ツン、とわたしの肩が突かれた。

「うん?」
「指、霜焼けになるよ」
「大丈夫だよ、これくらい」
「だめ、なまえの大丈夫は当てにならないんだから」

(むかつくけど…当たってる)

わたしはぷーっと頬を膨らませると、今度は頬を突かれた。
くすぐったくて逃げようとすると、今度はその手を差し出され、わたしは迷わずその手を取った。

「帰ろっか」
「………うん、」










―――  ――   ―
― ―――――― ――――
― ――――― ―  ―――
―――― ――――――――――  ―― ――










「風、強いね」

教室や校舎の中は暖房のお陰なのか、外よりは断然暖かかった。
外に出れば、北風が容赦なくわたし達を撫でるように吹いてくる。
やっぱり、寒かった。
嗚呼、冬だなあ。
普段から少しでも可愛く見せたいから、ぎりぎりまで上げているスカートのお陰で足は寒さで凍りそうだった。
前リュウジに、だったら上げなければいいのにと言われたけど、女子は気合いなのと答えたら、リュウジはそんなもんなの?と首を傾げていた。

「うう、寒い…」
「大丈夫?」

首に巻いていたマフラーを、鼻にかかるくらいまで上げるけれど、今日は運悪く手袋を忘れたから、手が冷たくなっていた。
するとリュウジは、左手の手袋を外してわたしの左手につけた。

「え、いいの?」
「だってこっちは繋げばいいじゃん」

にこにこ笑いながら、リュウジは開いた左手とわたしの右手を繋ぎ、リュウジのブレザーのポケットの中に入れた。
うん、確かに寒くないね。

(って、ちょっとこれ)
(…恥ずかしいんですけど)

「ね?」
「へ?!う、うん…」

下手したら女の子よりも可愛い、にこにことした笑顔を浮かべたリュウジには、わたしはどうしても勝つことが出来ない。
わたしは動揺したあまり、石も何も無いのにずっこけそうになる。

(セ、セーフ…)
(もう、相変わらずなんだから)
(ありがと…)
(いえいえ)

リュウジは手を繋いでないほうでわたしのお腹の下に手を入れ、腰を支えた。
また恥ずかしさで顔が熱くなったであろうわたしは、しっかりと自分の足で立ったのだけど、リュウジは楽しそうにわたしの頭を撫でた。
なんで。

「そういえば明日、テストあるんだね」
「英語、…わたし苦手なんだけどなあ」

恥ずかしくなって余計にマフラーに顔を埋めたわたしを気を遣ったのか、リュウジは話題を変えるように話し始めた。
リュウジの、そのさり気ない心遣いが物凄く嬉しかったりする。
ほら、やっぱり優しい。

だけど、その話題は明日突然やると宣言された―――――わたしが一番苦手な英語のテストのことで、正直恥ずかしさで赤くなっていた顔が、一気に青ざめた気がした。
自称熱血イケメン教師だとか言っている英語担当の先生は、みんなが一斉に文句を言ったら「先生はその驚く声が聞きたくて教師になったんだ」なんて貫かしていた。
あの先生、変態なんじゃないかと正直物凄く心配だ。
まずイケメン…とはお世辞でも言えない顔だし、そこまで若いわけでもないからあの―――――生徒にファッション誌を見せてもらってまでする若造りは必要ない、というかありえないと思う。
すると、わたしの独り言は知らぬ間に口から出ていたのか、リュウジが隣を歩いているわたししか聞き取れないくらいの小さな声で笑った。

「…ッ」
「、やっぱりなまえは面白いなあ」
「な、」

リュウジが漫画に出てくるような可愛い女の子が笑っているような、まるで花が咲いたみたいな笑顔で笑うと、リュウジの緑のポニーテールが揺れる。
思わず目で追っていると、リュウジはまだ笑っていて。

「もう、いつまで笑ってるの」
「あ、はは…ッ、……本当にあの先生のこと思い出したら、笑えてきちゃってッ」

通学路ですれ違う学校帰りの高校生や、近所のおばさん、犬の散歩をしている小学生。
いろんな人が、けらけらと笑っているリュウジを不思議そうに眺めていて、隣を歩いているわたしは恥ずかしさのあまりまた顔が赤くなっていた。















漸くリュウジの笑いが止まったと思えば、リュウジが住むおひさま園の前に着いていた。
わたしの家はおひさま園よりももう少し行ったところで、いつもはリュウジが気を遣って送ってくれるのだけど、これ以上恥ずかしい思いをしたくなかったわたしは、握っていた手を解き、リュウジに手袋を返した。

「本当に送らなくていいの?」
「大丈夫大丈夫、」
「なまえの大丈夫は信用出来ないからなあ」
「すぐそこなんだから、大丈夫だって!」
「お隣さんの犬が突然吠えだして、恐くて電信柱から離れられなくなったのは誰だっけ?」
「そ、それは…」
「家の目の前で転んで、大泣きしてたのは?
家の鍵忘れたからって、公園で寝ようとしてたのは?」
「う、………えっと、小さい頃の話だよ!」
「僕の記憶だと、先週のことだったような…」

過去にわたしに訪れた数々の災難というか、失敗という古傷を抉るかのように語りだしたリュウジ。
リュウジは優しいから、心配してくれてるみたいだけど………わたしをいじめているようにしか思えないような、気もする。

あーもう!分かりましたよ!
自分がドジだってことは十分分かってますから!
是非送ってください!

そう、わたしが投げ遣りに言い放つと、満足気にリュウジはまたわたしの手を握って歩きだした。










僕は世界を救えないので


せめて君だけでも、守り貫きたいのです







ドジなヒロインを守りたいけど、ちょっと悪戯というよりSっ気入ってるリュウジくんです
というより、自称熱血イケメン教師の設定を考えるほうが楽しかった

クリスマス関係なくてごめんなさい


お題:alkalismさまより


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