呟く | ナノ


★ボツネタ

※音無成り代わり・女主
→名前は春に固定。


揺れた。
何がだなんて、口には出せるはずがない。
それは物ではないけど、ある時だけは形があるような気がしたりする。

「円堂くん」
「ん?
…どうかしたか?秋」

彼女に名前を呼ばれるだけで、顔が赤くなる。
それは病気なのかと風丸に相談すると、それは鬼道には絶対に言うなと言われたのが記憶に新しい。
自覚した今なら、それが自分がこれから生きるための正論だと言うことは、十二分に分かっている。

―――――俺は、音無春に恋をしている。

雷門中サッカー部のマネージャー。
一年生。
得意なのは情報収集。
趣味はカメラ。
底無しの明るさで皆の人気者。

何時からなのかは分からない。
でも、俺は音無が好きだった。
重たい荷物を一人で運んでいたりすれば、俺は母ちゃんの教え通り誰にだって救いの手を差し伸べる。
時間が許す限りサッカー部の為にパソコンに向かっていたりすれば、皆と同じように声を掛ける。

『いつも俺達の為に、ありがとな!
でも、無理すんなよ?』

その言葉は、他のマネージャーにだって使うし、チームメイト達にだって使う時もある。
でも、音無に対して使う時だけは、自分が出してる声なのに何だか違う声な気がして。
声色というか、トーンというか。
そういうあからさまに分かるものではなくて、何ていうんだろう―――――そこに込められた気持ちが違うのか。
今だって、秋に対する返事が素っ気ない訳じゃないけど、何だか音無に向けて話す時とは違う感じがする。
自分の声なのに、おかしいな。

「どうかしたかって、円堂くんこそどうしたの?
最近、何だか上の空だよ?」
「…そ、そうか?」
「FFも終わって、部活も引退してからずーっとだよ
何だか、円堂くんじゃないみたい」
「何言ってんだよー秋
俺は俺だって!」
「……それは、そうなんだけど」

―――――やっぱりサッカー出来ないのが、寂しい?

「そうだな……
でも、一人でタイヤ特訓するのも、ドリブルするのもサッカーだって!
そりゃあ11人で試合が出来ないのは寂しいけどさ、高校決まれば幾らでも出来るさ!」
「……そうよね!」

本当は音無に会えなくなる日が近づいているのが寂しいのが事実なのだけど、俺は風丸にしかその事は言っていないし。
これからもきっと、誰にも告げないつもりでいる。
せいぜい、当たって砕けるのが落ちだ。
いつも前向きな俺らしくないと風丸は言うけど、元々俺はそんなに前に出ていくようなタイプじゃない。
今まではキャプテンとか、部長だとか、そんな役職にあったからなだけだ。

恋は盲目なんて、上手い例えだと最近になってよく思う。
少しでもいいように見られたくて見栄を張るし、他のモノなんて目に入らなくなる。

相槌を適当にうって、とりあえず笑顔で答えていくと、秋は満足したのか、席に帰ると言った。
ちょうどその時―――――

「あ、こここんにちは!」
「あれ、春ちゃん?」
「秋さん!お久しぶりです……!」

―――――俺の視界に、小さく映った懐かしい藍色だけが、輝いて見えた。
会いたかった、と大袈裟なリアクションで音無と抱き合っている秋に、少しだけ嫉妬している自分がいた。








リクエストで書いたんだけど
なんか成主にドキドキさせたほうがよかったかなって思って

最初の方は、秋ちゃんに気があると読み手に思わせようとしました。



02/15 08:39