ちぼうけ(黎→←亜紀)



『10時にこの場所に来い。…買い物ぐらい、付き合ってやらなくもない…』


その言葉と小さなメモを渡されただけなのに、私の心は馬鹿みたいに煩くなった。

自惚れていいの?
これって…まさか…


慣れない化粧とお洒落して、15分前に待ち合わせの場所に着く。

…黎…早く会いたいな…。

◇◆◇

「…あれ?黎、今日出掛けるんじゃなかったの?」

ベッドで寝ている俺に、同居している仲間のシンが問い掛けてきた。

「あんなもん、嘘に決まってんだろ。俺が朝霧なんかと出掛けるかっつーの」
「…最低…。亜紀ちゃん待ってるよ」
「どうせ俺が来なけりゃ気付いて帰るだろ。馬鹿な女」

そう言いながら二度寝を決め込む。
後ろからシンの溜め息が聞こえてきた。

◇◆◇

「…黎、来ないなぁ…」

今の時間は10時30分。
まぁ、30分の遅刻…なんか黎らしいな。

黎が来たら何処に行こう。

服とかは興味あるだろうか。
お昼ご飯は、黎はハンバーグが好きだからそれにしよう。
ゲーセンは行くのだろうか。
雑貨屋も行ってみたい。

好きな人を待つ時間も、悪くはないと思った。

◇◆◇

「あれ?………ヤバ…雨降ってきた…。…予報じゃ晴れだったのに…。洗濯物、洗濯物…」
「………雨?」

シンが慌ててベランダに干してあった洗濯物を仕舞いに外に出る。その声で目が覚めた。
時間は…11時30分…か。

…雨…。

「ふぅ…。…通り雨かな…迷惑だなぁ…」
「…。…降るのか…?」
「………心配?」
「…っ!…んなわけねぇだろ…下らねぇ…」

…。…帰ってるさ。…あいつも…そこまで馬鹿じゃねぇだろ…

◇◆◇

「ぅそ…雨降ってきちゃった…」

時間は11時30分。
黎はまだ姿を見せない。
とりあえず、傘を持ってきていないので待ち合わせ場所が見える木の下に避難することにした。

…。…黎寝てるのかな…。
それとも…。

そこまで考えて無理矢理思考を止めた。
黎は来てくれる。
疑うなんてこと…したくない。

亜紀は黎を信じて、雨の中待ち続けた。

◇◆◇

…13時45分。

あの後、黎は窓際に座り外と腕時計を交互に見続けていた。
外の雨は、先程より強くなりいよいよ本降りになってきた。

「…心配なら、早く見に行きなよ。部屋を彷徨かれると迷惑なんだけど…」
「…心配?…下らねぇ…」
「さっきも聞いた。…。亜紀ちゃんなら、待ってそうだよね。あの子意外と一途だから…」
「…。…馬鹿な奴…」

そう言ってまた外を眺める。
雨は、止みそうになかった。

◇◆◇

15時00分…。

殆んど人通りが少なくなった道に一人。
朝は晴れていたため薄着の亜紀に、雨が冷たく降り注ぐ。

「…さむ……」

ハァ…ッと息を吐き手を暖める。

「………レィ…早く会いたい…」

◇◆◇

17時30分。

日は沈み辺りは既に暗くなってきていた。それでも雨は止むことを知らないかのように降り続く。

「…。…來兄、迎えに行ってくる…」
「…行ってらっしゃい…」

傘を二つ持ち部屋を飛び出した黎。

「…來さん、今日休みのはずだけど…ね」

黎が完全に行ったことを確認すると、シンは苦笑しながら呟いた。

◇◆◇

バシャッと音を立てながら雨の中を黎は走った。

(いるわけないのに…何で…)

何で…こんな必死になってんだ…


待ち合わせの場所から少し離れたところで姿があるか見てみる。
だが、傘をさしている人影は見当たらなかった。

(ほらな、いねぇじゃないか)

自嘲するように軽く息を吐き来た道を戻ろうとする、その時。

「…くしゅん…っ」
「…っ!!?」

微かに、くしゃみが聞こえた。
その方を向くと、木の下で金の髪を濡らし膝を抱えて俯いている人影を見つけた。
今の時間は17時40分。

七時間以上も経ってんのに…何でこいつはいるんだよ!!

健気な亜紀の姿に、胸を打たれる黎。
罪悪感が込み上げてくる。

クシャッと自分の前髪をかき分け、亜紀の元へ歩を進める。
そして無言で、傘を差した。
人の気配に気付いたのか、亜紀が顔を上げる。その顔は、微かに涙で濡れていた。

「………レ…ィ…?」
「…何で、帰らねぇんだよ…。普通気付くだろ…嘘だって…」
「…レィを…信じてるから…。それに、レィは…嘘ついてないよ。ちゃんと…来てくれた…よ…」
「…馬鹿やろう…」

雨で冷えきった身体を、抱き締めてやる。
その温もりに安心したのか、亜紀は目を閉じそのまま気を失った。

ぐったりと自分に体重をかける亜紀を横抱きに抱え、夜露のホームに帰る。

「…ゴメン…な…。亜紀…」


◇◆◇

目を覚ますと、白い天井がぼやけた視界に入った。
見慣れない部屋…。朝霧のホームじゃない。

ゆっくりと上体を起こし、周りを見る。どうやら医務室の様なところみたいで、消毒の匂いが鼻をついた。
すると、ドアの向こうから話し声が聞こえてきた。意識をそちらに向ける。

『信じられない!!女の子にそんな酷いことするなんて…嫌がらせにしてはやりすぎ!!』
『うるせぇなぁ…。悪かったってんだろ…』
『私に言っても意味ないでしょ!!もぅ…最っ低。何も分かってないんだから…』
『…悪かったって…』
『とにかく、亜紀ちゃんには暫く近付かないで!!すごい熱だし、黎がいると迷惑!!』
『んなっ…。…。…顔ぐらい見ても…』
『ダメ!!』

話は強制的に終わったみたいで、桃が部屋に入ってきた。
カーテンを開けると、起きていた亜紀と目が合う。

「亜紀ちゃん!!よかった、目が覚めたのね。…熱は…まだ高いか…。ゆっくり休んでていいよ。紅にも事情は話しといたし」
「…あ…ありがとう…。あの…、黎は…?」

桃に言われるままに再びベッドに倒れ、布団を被りながら尋ねる。

「あのバカは今頃シン君に説教くらってるんじゃない?もう、あんな奴よりいい人いっぱいいるよ」
「…。…黎は、ちゃんと来てくれたよ。…。…私がいけないの。私がしつこく付きまとってるから…黎、迷惑してるんだよね…だから…仕方ないの」
「亜紀ちゃん…」
「桃にも、迷惑かけてゴメンね。私、大丈夫だから…。…ありがと」

弱々しく微笑むと、桃はギュッと亜紀を抱き締めた。

「全然いいよ。…亜紀ちゃんは無理しすぎなの。…ちゃんと休んで…ね?」
「うん…ありがと…」

急に眠気がやってきて、亜紀はそのまま深い眠りに落ちた。
桃は近くの机に薬を置くと、静かに部屋を後にした。



それから暫くたった時、亜紀が眠る医務室に一つの人影が現れた。
亜紀が眠っているのを確認して、音を立てずに椅子に座った。

「…。…悪かった…次は…ちゃんと行くからな…」

そのまま亜紀の額に軽くキスを落とした。



亜紀が目を覚まし、その姿に驚き悲鳴を上げるのは、まだ、先の事…―。


end


*****

オリジナルNLの中で一番好きな二人でした。両片思い萌える///
物凄い昔に書いた物なので恥ずかしいですが…読んで下さりありがとう御座いました!





 
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