編・序章





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息が、熱い……―――


足元が、暗い……―――


目の前が、赤い……―――




ああ、ここは、地獄か…―――





そう思った瞬間、足の力が抜けその場に倒れ込んだ。

噎せかえるように立ち込める、血の臭い。

容赦なく燃やし尽くす、紅蓮の炎。

未だ聞こえる、仲間たちの断末魔。



目を閉じたら、楽になれる…



届くはずのない願いを込めて、俺は静かに目を閉じた。






















「―ぃ…ぉーい、純也ー?」
「…?」

目を開けてみれば、見慣れた執務室。
どうやら先程のは夢で、書類整理の途中で寝てしまっていたようだった。

「…寝ていました、か…?」
「もう、ぐっすりとな。大事な書類に涎垂らしてまで」
「…嘘はやめてください…」

少しだけ恥ずかしくなって、下敷きにして皺になった書類を手で直す。が、かなり強く付いてしまったようだった。後でまた書き直さなくては。
仕事が余計に増えたことに溜め息を吐くと、ソファに座っていた尚哉が話しかけてきた。

「なぁ純也。何か…夢、見てなかったか?」
「…、忘れましたね。何故?」
「いや…お前さ、うなされてたから。だから起こしたんだ」
「そうでしたか…」
「まぁ、忘れたんならいいけどよ…」
「心配してくれて、ありがとうございます。さ、尚哉も仕事してくださいね」
「へいへい…」

















忘れることなんか出来ない。
それは、貴方もでしょう…尚哉。

あの惨劇を体験した私たちは、決して忘れてはいけないのですよ。

だからこうして、たまにあの時の夢を見る。

いつの日か、散った仲間の無念を晴らすことが叶う…その日まで…。










序章 了



 
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