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いちごいろのきす



「ぱちー!ねえねえ、まーだー?」
「そんなに早い訳ないでしょ、今デコレーション始めたばっかりなんだから」
「えー」
「はいはい、文句言わないの。というか、早くして欲しいなら手伝ったらどうなの?」
「今日の主役は、お・れ」


 甘い香りが漂うキッチンに立つ影がふたつ。その正体は、青いエプロンを付けたぱちーと、その背に覆い被さり駄々を捏ねる眉毛である。ぱちーは綺麗な焼き色をしたスポンジと向き合い、ケーキナイフを手にしていた。一方の眉毛はといえば、ぱちーを手伝うでもなくほぼ邪魔をしている状況なのだが、どうやら本人に自覚はないらしい。
 そう、何を隠そう今日は眉毛の誕生日なのである。だからこうして、ぱちーが眉毛の為にバースデーケーキを作っているのだ。と言っても、ぱちーの手作りケーキが食べたいとねだったのは眉毛の方であり、ぱちーは『眉毛の誕生日だから』と渋々了承した訳なのだが。
 ボウルに入れられた瑞々しい苺が、赤く赤く自己主張をしている。旬からかなり外れている為に春期よりも少々値が張ったのだが、ケーキに於いてはメインとなる流石に外せなかった苺。それを眉毛はさも当然のように摘み上げ、口へと運ぶ。咥内にじわりと広がる甘酸っぱさに、眉毛は思わず口元を綻ばせた。


「あああちょっと!何堂々と摘み食いしてんの!」
「美味しそうだったから、つい!あ、ぱちーも食べる?」
「ケーキに使う分がなくなるでしょ、良いの?」
「それはやだあああ!」
「じゃあ摘み食いしないの、ね?」


 まるで幼子をあやすかのように、ぱちーは努めて優しい口調で眉毛を諭した。無邪気な眉毛の、傾げられた小首と不服そうに動く柳眉が可愛らしい。眉毛のそんな姿に感化されたらしいぱちーは、少しだけ頬に朱を散らす。
 ちゅ、微かなリップ音。上気した頬を誤魔化そうと眉毛の唇を奪ったぱちーは、咥内に広がる甘酸っぱさを堪能する。驚いた眉毛の顔が視界を掠めた気がしたが、そんなのは関係ない。嗚呼、このキスはまるで、青春みたいな風味だ。静かに唇を離したぱちーは、にやりとしたり顔を浮かべた。




 (ちょ、ぱちー…)(なに、眉毛)(…こんな事してたら、ケーキ完成しないよ…?)(いやいやいや、誰のせいだよ!?)








あとがき
糖度たっぷり。まゆくんお誕生日おめでとう、いつも癒しをありがとうございます。ぱちーくんとお幸せに!



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