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切ない愛と水の匂い



 ぱちーはそっと、俯く眉毛の頭を撫でてみた。滑らかな髪が掌をすり抜ける。すると頭を撫でられた彼は案の定大袈裟なくらいに身体を揺らして、その華奢な身体を一層縮込ませた。まるでか弱い小動物のようだと、ぱちーは密やかに思った。かたかたと少しだけ震える眉毛の身体を、ぱちーはそっと抱き寄せて目を瞑る。狼狽えて微かに身動ぐ彼を余所に、ぱちーは彼の温もりに安堵していた。
 俺達の関係は一体いつから、こじれ始めたのだろう。一体いつから、こんな風になってしまったのだろう。ぱちーはやや思案し、そうして漸く暗い思考の砂漠の中から一粒の答えを探し出した。それは一度認めてしまえば簡単には後戻りなんか出来ない、そんな答えだった。


 愛、を知ってしまったのかも知れないのだ、ふたりは。確かにそれは不確かな上に不器用ではあったが、彼らなりの愛なのかも知れない。きちんと『愛』と呼べる何かを、見付けたのかも知れない。だけれども所詮は淡く儚い硝子細工だ。砕け散ってしまわない保証などどこにも、ない。


「…どうして、俺の傍に居るの。ぱちーは、どうして俺の傍に居ようと思えるの。俺が求めてるのは、ぱちーじゃないかも知れないのに」
「……何でだろ、俺にも分かんない。でも俺は好きだよ、眉毛の事」
「………ぱちーは、ばかだよ」
「うん。でも眉毛と居られるなら、馬鹿でも良いなって」


 ふとぱちーの口元に自嘲的な笑みが浮かんだ。とても寂しそうなそれはやけに痛々しい。眉毛が俯いていてくれて本当に良かった、とぱちーは思う。今の表情を見られていたら、優しい彼はきっとまた鬱いでしまうだろうから。自分の所為でこれ以上彼を壊してしまうのは、ぱちーにはどうしたって堪えられない事だった。


 (『眉毛と居られるなら』なんて、本当に馬鹿だなあ、俺。絶対に俺が付き纏ってるだけだろ、今の状況って。…そういえば眉毛、泣いてるのかな。顔、全然上げないし。眉毛の顔、見たいなあ。キス、したい。でも俺じゃ、駄目なんだ)
 (ねえ、ぱちー。俺だって本当は、ぱちーの事好きだよ。大好きなんだよ。でも怖くて。いつか俺なんか要らないって言われるんじゃないかって、そう考えると凄く凄く、怖いんだよ。ねえ、ぱちー、愛してる。俺の事、捨てないで)


 色のない透明な雫が、切なげな部屋とふたりを反射しながらきらきらと床を目指し落下した。数秒すら経たぬ内に冷たい床へと叩き付けられた雫は弾け飛び、切なさを更に拡散させる。しかしそれを落としたのが誰かという事は、今この場に居るふたりでさえ分からなくなっていた。








あとがき
両片思いな切ないぱち眉が初めて書いた作品だったなんてそんな。



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